『海の声』は明治四十一年七月に若山牧水が自費出版で刊行した処女歌集である。明治三十九~四十一年の三年間の四百七十五首が収められている。
若山牧水『海の声』
白鳥は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ
若山牧水を読んだことがない方でもこの歌は聞いたことがあるのではないだろうか。中学校の国語の教科書にも掲載されている若山牧水の代表作である。明治四十一年七月、若山牧水が自費出版で刊行した歌集『海の声』に収められている。
『海の声』には明治三十九~四十一年の三年間の四百七十五首が収められている。刊行当時、若山牧水は二十四歳の青年である。情熱的な恋愛に傾いていた時期であり、 ロマンチックな叙情に溢れている。
初出では、白鳥に<はくちょう>とルビがあり、また第三、四句「海の青空のあをにも」とあり、海と空の位置が逆転している。
先日、若山牧水の歌集を片手に携えて海に出かけた。水平線を眺めながら『海の声』に収められている短歌を順番に朗唱する。
テトラポッドの上空をかもめが舞っていた。「白鳥は……」と歌の情景を眼前に短歌を朗唱してみたら、歌の趣が一層心に感じられた。
若山牧水と旅
幾山河越えさり行かば寂しさの終てなむ国ぞ今日も旅ゆく
こちらも国語の教科書に掲載されている若山牧水の代表作である。「十首中国を巡りて」と注記のある連作のひとつであり、有本芳水の説では、岡山県阿哲郡の二本松峠の茶屋に一泊したときの作品であるらしい。旅の歌人・若山牧水を象徴した歌になっている。
若山牧水と酒
とろとろと琥珀の清水津の国の銘酒白鶴瓶あふれ出る
若山牧水は酒を愛していて、最初の歌集から酒を歌っている。「白鶴」は神戸市灘区の醸造酒である。若山牧水は、一日一升の酒を呑んでいたといわれていて、昭和三年(一九二八年)に肝硬変で亡くなる(享年四十三歳)。酒の歌人の異名は伊達ではない。
沼津市若山牧水記念館
若山牧水が晩年を過ごした静岡県沼津市には若山牧水記念館があり、関連資料を閲覧することができる。静岡を旅行する際には一度訪れてみてはいかがだろうか。