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日本文学の名作【50選】源氏物語から村上春樹まで

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アイキャッチ画像 日本文学

本記事では、日本文学の名作50点を紹介します。絶対に読んでおきたい古典作品から、現代文学の作品まで、日本文学史を概観できるようになっています。それから、可能な限り、小説家を目指している方のために小説技術向上のために参考になる作品を選びました。基本的には、自分が興味を抱いた作品から読んでいってかまいません。あせらず、1冊ずつ、読んでいきましょう。

『古事記』

天地開闢から始まり、日本がいかに誕生して、神々や皇室の祖先がいかに活躍し、今の地名がどんな由来で名づけられたかなどを物語るわが国で現存する最古の典籍を、最も分かりやすい現代語訳で全訳した名著。

出典:Amazon「現代語訳 古事記(河出文庫)」

『日本書紀』

『古事記』と並んで「記紀」と呼ばれる『日本書紀』は、全三十巻に及ぶ「わが国最初の国史」である。本書は、『古事記』も訳した福永武彦による、最も分かりやすい現代語訳で精選抄訳した名著。神話、伝説、歴史と、さまざまな記録が織り込まれ、皇室の系譜を中心に語られる壮大な古代史を、現代の眼であらためて読む醍醐味。

出典:Amazon「現代語訳 日本書紀(河出文庫)」

世界文学の時代に日本語で小説を書くということは、すなわち『古事記』『日本書紀』を読むということです。今後、世界文学の時代には、逆説的に、日本神話が根底に響いている作品が求められるのではないでしょうか。

とりあえず、有名なところだけを読みたいなら、福永武彦氏の『現代語訳 古事記』『現代語訳 日本書紀』 (河出文庫)がおすすめです。

『源氏物語』紫式部

『源氏物語』第一部・第二部は、「桐壺・若紫・葵・須磨・明石・薄雲・乙女・野分・藤裏葉・若菜上下・柏木・御法・幻」の巻を主軸にして、本筋から逸脱した、挿入的な「並の巻」が加わって、有機的・立体的な構成になっています。

『源氏物語』の現代語訳は谷崎潤一郎訳(中公文庫)がおすすめ。原典に忠実な現代語訳を試みていて、平安王朝の雰囲気を損なっていません。しかも、自然に読むことができます。

『今昔物語集』

全三十一巻、千話以上を集めた日本最大の説話集。本朝(日本)に対し、天竺(インド)・震旦(中国)という、当時知られた世界全域を仏教文化圏として視野に置く。本巻にはこのうち本朝の世俗説話の前半、巻第二十二~二十六を収めた。藤原氏の来歴、転換期に新しく立ち現れた武士の価値観と行動力、激動を生き抜く強さへの驚嘆と共感を語り伝える。

出典:Amazon「今昔物語集 本朝世俗篇(上)全現代語訳(講談社学術文庫)」

『宇治拾遺物語』

鎌倉時代前期に成立した代表的説話集。貴族・僧などの著名人から、下級官人、侍、庶民、子供まで登場人物が多様で世俗的傾向の強い話を集める。強力譚、報恩譚、聖譚、不思議譚、艶笑譚など世の万般を描く切れ味鋭い話の数々。本巻には「舌切り雀」「芋粥」など現代に伝わる物語を含む一〇四話を収録。古本系統『伊達本』を底本として全訳・解説。

出典:Amazon「宇治拾遺物語 上 全訳注(講談社学術文庫)」

説話集は「物語の雛形」の宝庫。
定番の説話集として『今昔物語集』『宇治拾遺物語』を読んでおきましょう。

世俗説話の登場人物は、貴族、武士、僧侶、学者、医師、農民、漁民、商人、遊女から、盗賊、乞食にいたるまで。多種多様な階層のエネルギーに触れてください。

『雨月物語』上田秋成

独創的な幻想が綾なすファンタジックな世界―この幻想空間を描いて他の追随をゆるさない上田秋成『雨月物語』。それは、中国白話小説の用字や修辞を巧みに活用し、芸術的香気ただよう文章のうちに、主人公たちとその運命の悲劇的な情念世界をみごとに造形化した。貞女宮木、悪霊磯良、蛇精真女児らの悲しい運命を、作者の夢想的稟質と自覚的な方法が知的で美しい幻想小説に織りなしていく。この『雨月物語』の世界を、読みやすい本文とともに、語釈、現代語訳、さらには鋭角的な評を付しておくる。「訳注日本の古典」シリーズの決定版。

出典:Amazon「雨月物語(ちくま学芸文庫)」

近世怪異小説の最高傑作。「白峯」「菊花の約」「浅茅が宿」「夢応の鯉魚」「仏法僧」「吉備津の釜」「蛇性の婬」「青頭巾」「貧福論」の九編。

『世間胸算用』井原西鶴

大晦日に借金取りと町人たちのあいだで繰りひろげられる奇想天外なやりとりの数々。鋭い人間観察の眼が冴える西鶴晩年の傑作短編集。

出典:Amazon「新潮日本古典集成〈新装版〉 世間胸算用」

井原西鶴の浮世草子(町人物)。副題は「大晦日は一日千金」。
大晦日は売買の勘定の決済日。取り立てから逃れるために知恵を絞った攻防戦が繰り広げられる。三谷幸喜になりたいなら、むしろ、井原西鶴から学ぶべきかもしれない。

『当世書生気質』坪内逍遥

学生小町田粲爾と芸妓田の次とのロマンス、吉原の遊廓、牛鍋屋―明治10年代の東京の学生生活と社会風俗を描いた日本近代文学の先駆的作品。坪内逍遙(1859‐1935)は勧善懲悪を排して写実主義を提唱した文学理論書『小説神髄』とその具体化としての本書を著し、明治新文学に多大な影響を与えた。

出典:Amazon「 当世書生気質(岩波文庫)」

『浮雲』二葉亭四迷

江戸文学のなごりから離れてようやく新文学創造の機運が高まりはじめた明治二十年に発表されたこの四迷の処女作は、新鮮な言文一致の文章によって当時の人々を驚嘆させた。秀才ではあるが世故にうとい青年官吏内海文三の内面の苦悩を精密に描写して、わが国の知識階級をはじめて人間として造形した『浮雲』は、当時の文壇をはるかに越え、日本近代小説の先駆とされる作品である。

出典:Amazon「浮雲(新潮文庫)」

写実主義の作家、坪内逍遥、二葉亭四迷は、江戸時代の戯作文学から本格的な日本近代文学に橋渡しの役割を果たしました。

『当世書生気質』から『浮雲』に進むことによって、日本近代文学の誕生を実感することができます。坪内逍遥は、江戸戯作の影響から完全に免れることはできませんでしたが、二葉亭四迷は『浮雲』の執筆によって、「写実」の意義を確立しました。両方の作品を比較してみてください。

『金色夜叉』尾崎紅葉

美貌の鴫沢(しぎさわ)宮をカルタ会で見染めた銀行家の息子・富山唯継(ただつぐ)は、宮に求婚し、その代償として宮の許婚者・間(はざま)貫一を外遊させることを宮の両親に誓う。熱海の海岸で、宮の心が富山に傾いたと知った貫一は絶望し、金銭の鬼と化して高利貸しの手代になる……。

出典:Amazon「金色夜叉(新潮文庫)」

『五重塔』幸田露伴

技量はありながらも小才の利かぬ性格ゆえに、「のっそり」とあだ名で呼ばれる大工十兵衛。その十兵衛が、義理も人情も捨てて、谷中感応寺の五重塔建立に一身を捧げる。エゴイズムや作為を越えた魔性のものに憑かれ、翻弄される職人の姿を、求心的な文体で浮き彫りにする文豪露伴(1867‐1947)の傑作。

出典:Amazon「五重塔(岩波文庫)」

擬古典主義の作家、尾崎紅葉、幸田露伴は共に井原西鶴の作品から影響を受け、雅俗折衷体の文学を完成して、明治二十年代には紅露時代を築きました。

『金色夜叉』…アプローチを工夫できたら、金権主義VS恋愛主義のテーマは現代でも通用するかもしれません。
『五重塔』…第31-32章、江戸の町に襲いかかる暴風雨の描写は迫力満点。模写をして、幸田露伴の豪快な文章を堪能してください。

『にごりえ』『たけくらべ』樋口一葉

落ちぶれた愛人の源七とも自由に逢えず、自暴自棄の日を送る銘酒屋のお力を通して、社会の底辺で悶える女を描いた『にごりえ』。今を盛りの遊女を姉に持つ14歳の美登利と、ゆくゆくは僧侶になる定めの信如との思春期の淡く密かな恋を描いた『たけくらべ』。他に『十三夜』『大つごもり』等、明治文壇を彩る天才女流作家一葉の、人生への哀歓と美しい夢を織り込んだ短編全8編を収録する。用語、時代背景などについての詳細な注解および年譜を付す。

出典:Amazon「にごりえ・たけくらべ(新潮文庫)」

日本文学史では、樋口一葉は初期浪漫主義の作家に含められていますが、擬古典主義的な文体で小説を書きました。

とにかく、奇蹟的な文体。『にごりえ』『たけくらべ』は現代語訳ではなく、原文で鑑賞してください。

『あらくれ』徳田秋声

年頃の綺麗な娘であるのに男嫌いで評判のお島は、裁縫や琴の稽古よりも戸外で花圃の世界をするほうが性に合っていた。幼い頃は里子に出され、七歳で裕福な養家に引きとられ十八歳になった今、入婿の話に抵抗し、婚礼の当日、新しい生活を夢みて出奔する。庶民の女の生き方を通して日本近代の暗さを追い求めた秋声の、すなわち日本自然主義文学を代表する一作。

出典:Amazon「あらくれ(講談社文芸文庫)」

自然主義文学の傑作。器量よし、ところがどっこい、男嫌い、気性の荒い女性、お島の半生を描いた作品。『風と共に去りぬ』のスカーレット・オハラが大暴れ、というところでしょうか。

奔放な女性を主人公にした小説を書いてみたい、と考えている方は参考にしてください。成瀬巳喜男の同名映画も名作です。

『高野聖』泉鏡花

飛騨天生(あもう)峠、高野の旅僧は道に迷った薬売りを救おうとあとを追う。蛇や山蛭の棲む山路をやっと切りぬけて辿りついた峠の孤家(ひとつや)で、僧は匂うばかりの妖艶な美女にもてなされるが……彼女は淫心を抱いて近づく男を畜生に変えてしまう妖怪であった。 幽谷に非現実境を展開する『高野聖』ほか、豊かな語彙、独特の旋律で綴る浪漫の名作『歌行燈』『女客』『国貞えがく』『売色鴨南蛮』を収める。詳細な注解を付す。

出典:Amazon「歌行燈・高野聖(新潮文庫)」

幻想小説の名作として泉鏡花の『高野聖』をピックアップ。

大学生諸君。澁澤龍彦、夢野久作、寺山修司もいいけれども、泉鏡花に真剣に取り組んでみませんか。少なくとも、幻想小説の書き手になりたいなら。語りの構造、怪奇的な雰囲気の醸成に注目。

『破戒』島崎藤村

明治後期、部落出身の教員瀬川丑松は父親から身分を隠せと堅く戒められていたにもかかわらず、同じ宿命を持つ解放運動家、猪子蓮太郎の壮烈な死に心を動かされ、ついに父の戒めを破ってしまう。その結果偽善にみちた社会は丑松を追放し、彼はテキサスをさして旅立つ。激しい正義感をもって社会問題に対処し、目ざめたものの内面的相剋を描いて近代日本文学の頂点をなす傑作である。

出典:Amazon「破戒(新潮文庫)」

告白小説の構造は現代小説に応用できないかもしれません。しかし、『破戒』の社会小説的な側面は侮れません。もしかしたら、日本の自然主義文学がフランスのレベルにまで発展していたかもしれない、という可能性が感じられる作品。

『蒲団』田山花袋

家庭があり知識も分別もある、世間に名を知られた中年の作家の女弟子への恋情―花袋は、主人公の内面を赤裸々に暴き立て、作者自身の懺悔録として文壇に大きな衝撃を与えた、日本自然主義文学の代表作。日露戦争の最中ひっそりと死んでゆく哀れな一兵卒を描いて読む者の胸をうつ小品「一兵卒」を併収。

出典:Amazon「蒲団・一兵卒(岩波文庫)」

自然主義文学は、客観的に現実世界を描写することを目指したにもかかわらず、『蒲団』の中の客観的な世界には虚飾が漂っているというパラドックスに注目。文学の世界において、客観性とは何か、考えてみてください。

『武蔵野』国木田独歩

浪漫主義と抒情に出発した初期の名作18編を収録した独歩の第一短編集。詩情に満ちた自然観察で武蔵野の林間の美をあまねく知らしめた不朽の名作「武蔵野」、自然を背景にした平凡な人間の平凡な生活のうちに広大な一種の無限性を感じさせる「忘れえぬ人々」。ほかに「源叔父」「河霧」「鹿狩」など、簡勁で彫りのふかい文体と、内容にふさわしい構成の秀抜さを示す作品を収める。詳細な注解・年譜を付す。

出典:Amazon「武蔵野(新潮文庫)」

風景描写の最高の教科書。徹底的に模写してください。

『三四郎』夏目漱石

熊本の高等学校を卒業して、東京の大学に入学した小川三四郎は、見る物聞く物の総てが目新しい世界の中で、自由気侭な都会の女性里見美禰子に出会い、彼女に強く惹かれてゆく…。青春の一時期において誰もが経験する、学問、友情、恋愛への不安や戸惑いを、三四郎の恋愛から失恋に至る過程の中に描いて「それから」「門」に続く三部作の序曲をなす作品である。

出典:Amazon「三四郎(新潮文庫)」

青春小説の傑作。群像劇を描きながら、社会の偽善に対して批判の目が向けられていることを忘れてはいけません。夏目漱石のユーモア×批評精神を真似できたら、怖いものなし。

『舞姫』森鴎外

許されぬ殉死に端を発する阿部一族の悲劇を通して、高揚した人間精神の軌跡をたどり、権威と秩序への反抗と自己救済を主題とする歴史小説の逸品『阿部一族』。ドイツ留学中に知り合った女性への恋情をふりきって官途を選んだ主人公を描いた自伝的色彩の強いロマン『舞姫』ほか『うたかたの記』『鶏』『かのように』『堺事件』『余興』『じいさんばあさん』『寒山拾得』を収録。

出典:Amazon「阿部一族・舞姫(新潮文庫)」

明治十七年、森鴎外はドイツに留学。5年間医学の勉強をしながら、見聞を広めて、帰国後には留学中の体験を基にしたドイツ土産三部作(『舞姫』『うたかたの記』『文づかひ』)を発表しました。

海外留学を経験した方は、ぜひ、『舞姫』を真似して小説を書いてみてください。「異国情緒を漂わせた浪漫的な作品」は現代では困難かもしれませんが。

『冥途』『旅順入城式』內田百閒

いまかいまかと怯えながら、来るべきものがいつまでも現われないために、気配のみが極度に濃密に尖鋭化してゆく―。生の不安と無気味な幻想におおわれた夢幻の世界を描きだした珠玉の短篇集。

出典:Amazon「冥途・旅順入城式(岩波文庫)」

幻想的な短編小説集。本当にわけのわからないものから、わかりやすいものまで。
悪い夢にうなされたら、百閒先生の短編小説を参考にして書き起こしてみる、ということをライフワークにしてみたら、最高の文章修行になりますよ。

『河童』芥川龍之介

芥川最晩年の諸作は死を覚悟し、予感しつつ書かれた病的な精神の風景画であり、芸術的完成への欲求と人を戦慄させる鬼気が漲っている。出産、恋愛、芸術、宗教など、自らの最も痛切な問題を珍しく饒舌に語る「河童」、自己の生涯の事件と心情を印象的に綴る「或阿呆の一生」、人生の暗澹さを描いて憂鬱な気魄に満ちた「玄鶴山房」、激しい強迫観念と神経の戦慄に満ちた「歯車」など6編。「或阿呆の一生」と「歯車」は死後の発表となった。

出典:Amazon「河童・或阿呆の一生(新潮文庫)」

精神病院の患者、第二十三号は河童の国に迷い込む。

架空の生物の世界を描写することにより、相対的に人間の本質を浮かび上がらせるという手法。同様の手法は、現代作品の中にも頻繁に登場しますよ。

『或る女』有島武郎

美貌で才気溢れる早月葉子は、従軍記者として名をはせた詩人・木部と恋愛結婚するが、2カ月で離婚。その後、婚約者・木村の待つアメリカへと渡る船中で、事務長・倉地のたくましい魅力の虜となり、そのまま帰国してしまう。個性を抑圧する社会道徳に反抗し、不羈奔放に生き通そうとして、むなしく敗れた一人の女性の激情と運命を描きつくした、リアリズム文学の最高傑作のひとつ。

出典:Amazon「或る女(新潮文庫)」

フェミニズムのテクストとして解釈が拡がっている作品。女性を主人公にした小説の結末に悩んでいるなら、本書から学ぶことがあります。

『小僧の神様』志賀直哉

円熟期の作品から厳選された短編集。交通事故の予後療養に赴いた折の実際の出来事を清澄な目で凝視した「城の崎にて」等18編。

出典:Amazon「小僧の神様・城の崎にて(新潮文庫)」

やっぱり、小説の神様はすごい。最近は流行らないけれども、志賀直哉の作品から直球勝負の方法を学ぶことができます。

『檸檬』梶井基次郎

ほとんど無名のうちに夭折しながらも後年、三島由紀夫をして「デカダンスの詩と古典の端正との結合、熱つぽい額と冷たい檸檬との絶妙な取り合はせであつて、その肉感的な理知の結晶ともいふべき作品は、いつまでも新鮮さを保ち、おそらく現代の粗雑な小説の中に置いたら、その新しさと高貴によつて、ほかの現代文学を忽ち古ぼけた情けないものに見せるであらう」と云わしめた梶井基次郎の全集。難解な語句には注を付し、すべての作品はもとよりの習作・遺稿までを網羅した全一巻。

出典:Amazon「梶井基次郎全集全1巻(ちくま文庫)」

レモンと爆弾のイメージの融合。
梶井基次郎の作品は文庫本1冊で完結していて、手頃に読むことができます。こちらの1冊から心象スケッチの技術をしっかりと吸収してください。

『細雪』谷崎潤一郎

大阪船場に古いのれんを誇る蒔岡家の四人姉妹、鶴子、幸子、雪子、妙子が織りなす人間模様のなかに、昭和十年代の関西の上流社会の生活のありさまを四季折々に描き込んだ絢爛たる小説絵巻。三女の雪子は姉妹のうちで一番の美人なのだが、縁談がまとまらず、三十をすぎていまだに独身でいる。幸子夫婦は心配して奔走するが、無口な雪子はどの男にも賛成せず、月日がたってゆく。

出典:Amazon「細雪(上)(新潮文庫)」

『刺青』『春琴抄』に食傷気味なら、『細雪』がおすすめ。正統派。

『あめりか物語』『ふらんす物語』永井荷風

明治四一年、自然主義の文壇を一撃、魅了した短篇集。シアトル着からNY出帆まで、文明の落差を突く洋行者の眼光と邦人の運命が点滅する「酔美人」「夜半の酒場」「支那街の記」―近代人の感性に胚胎した都市の散文が花開く。『ふらんす物語』姉妹篇。

出典:Amazon「あめりか物語(岩波文庫)」

明治四〇年七月、二七歳の荷風は四年間滞在したアメリカから憧れの地フランスに渡った。彼が生涯愛したフランスでの恋、夢、そして近代日本への絶望―屈指の青春文学の「風俗を壊乱するもの」として発禁となった初版本(明治四二年刊)を再現。

出典:Amazon「ふらんす物語(岩波文庫)」

1903年、永井荷風は父親に命じられて、実業を学ぶために渡米。1907年、渡仏。遊学の所産、『あめりか物語』『ふらんす物語』から、耽美的詩情を感じてください。

『田園の憂鬱』佐藤春夫

都会の重圧と喧噪に苦しみ、己の生の意味を見失った青年が、愛人と二匹の犬と一匹の猫をかかえて草深い武蔵野の一隅に移る。青年は土と雑草と丘陵を見つめ、憂鬱と倦怠を噛みしめながら、自己の内部に沈静する。絶間のない幻覚、予感、焦躁、模索……。青春と芸術の危機を語り、様々な自然の事象を官能的な筆致で描いた本書は、著者の代表作であり、浪漫派文学の不朽の名作である。

出典:Amazon「田園の憂鬱(新潮文庫)」

「おお、薔薇、汝病めり!」

暗い。とにかく、暗い。佐藤春夫が神経衰弱に悩まされていたときに書いた短編小説。
鬱病になってしまったら、薬物療法ではなく、田園の憂鬱的小説を書いて自分の魂を癒やしてみるというのもありかもしれません。

『山の音』『千羽鶴』川端康成

深夜ふと響いてくる山の音を死の予告と恐れながら、信吾の胸には昔あこがれた人の美しいイメージが消えない。息子の嫁の可憐な姿に若々しい恋心をゆさぶられるという老人のくすんだ心境を地模様として、老妻、息子、嫁、出戻りの娘たちの心理的葛藤を影に、日本の家の名状しがたい悲しさが、感情の微細なひだに至るまで巧みに描き出されている。戦後文学の最高峰に位する名作である。

出典:Amazon「山の音(新潮文庫)」

鎌倉円覚寺の茶会で、今は亡き情人の面影をとどめるその息子、菊治と出会った太田夫人は、お互いに誘惑したとも抵抗したとも覚えはなしに夜を共にする……。志野茶碗がよびおこす感触と幻想を地模様に、一種の背徳の世界を扱いつつ、人間の愛欲の世界と名器の世界、そして死の世界とが微妙に重なりあう美の絶対境を現出した名作である。

出典:Amazon「千羽鶴(新潮文庫)」

戦後の代表作をピックアップ。川端康成が追求した美の世界。世俗的な成功(ノーベル文学賞受賞)とは裏腹に、日本的心性ときれいにまとめられることに違和感があったかもしれません。象徴技法と美的感覚が見事に融合している作品。

『蝿』横光利一

新感覚派の驍将として登場した横光は、つぎつぎと新しい小説形式に挑戦したが、戦争によって不幸にも挫折した。だが現在の文学状況の中で、横光の試みは今もなお課題たりうる多くのものを含んでいる。表題二作のほか「火」「笑われた子」「蝿」「御身」「花園の思想」「赤い着物」「ナポレオンと田虫」の初期短篇と「機械」を収める。(解説=保昌正夫)

出典:Amazon「日輪・春は馬車に乗って 他八篇(岩波文庫 緑75-1)」

小説の視点について、映像表現的な技術を通して勉強になる作品。フォーカスの対象は小説家の無意識を浮き彫りにします。

『風立ちぬ』堀辰雄

風のように去ってゆく時の流れの裡に、人間の実体を捉えた「風立ちぬ」は、生きることよりは死ぬことの意味を問い、同時に死を越えて生きることの意味をも問うている。バッハの遁走曲(フ-ガ)に思いついたという「美しい村」は、軽井沢でひとり暮しをしながら物語を構想中の若い小説家の見聞と、彼が出会った少女の面影を、音楽的に構成した傑作。

出典:Amazon「風立ちぬ・美しい村(新潮文庫)」

スタジオジブリ『風立ちぬ』の原作。死の問題に向き合いながら、軽やかに、風のように、過ぎ去っていく。叙情的散文の傑作。

『若い詩人の肖像』伊藤整

小樽高等商業学校に入学した「私」は野望と怖れ、性の問題等に苦悩しつつ青春を過ごす。昭和三年待望の上京、北川冬彦、梶井基次郎ら「青空」同人達との交遊、そして父の危篤…。純粋で強い自我の成長過程を小林多喜二、萩原朔太郎ら多くの詩人・作家の実名と共に客観的に描く。詩集『雪明かりの路』『冬夜』誕生の時期を、筆者50歳円熟の筆で捉えた伊藤文学の方向・方法を原初的に明かす自伝的長篇小説。

出典:Amazon「若い詩人の肖像(講談社文芸文庫)」

ジェイムズ・ジョイス『若い芸術家の肖像』の影響を受けた作品。大正末期から昭和初期にかけて、作者の魂の変遷を辿っています。自伝的青春小説を書きたいなら、自己から距離を置かなければなりません。

『歌のわかれ』中野重治

1934年5月、中野重治転向、即日出所。――志を貫き筆を折れという純朴な昔気質の老いた父親と書くことにより“転向”を引受け闘いぬくと自らに誓い課す息子。その対立をとおし転向の内的課程を強く深く追究した「村の家」をはじめ、四高時代の鬱屈した青春を描き、抒情と訣別し変革への道を暗示した三部作。「歌のわかれ」、ほかに「春さきの風」などを収録。

出典:Amazon「村の家・おじさんの話・歌のわかれ(講談社文芸文庫)」

プロレタリア文学の芸術的価値は低い?
歴史の教科書的記述を信じているなら、中野重治に打ちのめされるべし。とりあえず、プロレタリア文学=『蟹工船』の図式を壊してください。

『山月記』中島敦

人はいかなる時に、人を捨てて畜生に成り下がるのか。中国の古典に想を得て、人間の心の深奥を描き出した「山月記」。母国に忠誠を誓う李陵、孤独な文人・司馬遷、不屈の行動人・蘇武、三者三様の苦難と運命を描く「李陵」など、三十三歳の若さでなくなるまで、わずか二編の中編と十数編の短編しか残さなかった著者の、短かった生を凝縮させたような緊張感がみなぎる名作四編を収める。用語、時代背景などについての詳細な注解および年譜を付す。

出典:Amazon「李陵・山月記(新潮文庫)」

変身譚の名作としてピックアップ。変身譚の極意は、変身のコンテクストです。「不条理」を気取るためにやみくもに変身を用いているなら、『山月記』を読み、初心に返ってください。まあ、変身した御本人が変身した理由を明確に語るケースは少ないですが。

『グスコーブドリの伝記』宮沢賢治

宮沢賢治が夢想した理想郷、イーハトーブ。
童話世界の構築を目指すなら、宮沢賢治の作品群は非常に参考になります。作家と作品を混同することは文学批評の世界では基本的にご法度ですが、宮沢賢治に限るなら、伝記の併読をおすすめします。

『第七官界彷徨』尾崎翠

七つめの感覚である第七官―人間の五官と第六感を超えた感覚に響くような詩を書きたいと願う、赤いちぢれ毛の少女・町子。分裂心理や蘚の恋愛を研究する一風変わった兄弟と従兄、そして町子が陥る恋の行方は?読む者にいまだ新鮮な感覚を呼び起こさせる、忘れられた作家・尾崎翠再発見の契機となった傑作。

出典:Amazon「第七官界彷徨(河出文庫)」

元祖・少女漫画。最近の大学生が安易に模倣して大火傷する作品。尾崎翠に憧れる気持ちはわかりますが。

『一千一秒物語』稲垣足穂

少年愛、数学、天体、ヒコーキ、妖怪…近代日本文学の陰湿な体質を拒否し、星の硬質な煌きに似たニヒリスティックな幻想イメージによって、新しい文学空間を構築する“二十一世紀のダンディ”イナガキ・タルホのコスモロジー。表題作のほか『黄漠奇聞』『チョコレット』『天体嗜好症』『星を売る店』『弥勒』『彼等』『美のはかなさ』『A感覚とV感覚』の全9編を収録する。

出典:Amazon「一千一秒物語(新潮文庫)」

あなたが○〇○マニアなら、○○○の小説を書いてみたらいいかもしれません。特定のモチーフから小説を書く場合、『一千一秒物語』は参考になります。ただし、稲垣足穂にがんじがらめにならないようにしてください。

『D坂の殺人事件』江戸川乱歩

大正末期、大震災直後の東京にひとりの異才が登場、卓抜な着想、緻密な構成、巧みな語り口で読者をひきこむ優れた短篇を次々と発表していった。日本文学に探偵小説の分野を開拓し普及させた江戸川乱歩(1894‐1965)の、デビュー作「二銭銅貨」をはじめ「心理試験」「押絵と旅する男」など代表作12篇を収録。

出典:Amazon「江戸川乱歩短篇集(岩波文庫)」

名探偵明智小五郎の初登場作品。江戸川乱歩の登場人物は、現実的ではないけれども、ありえないことではない可能性について常に考えています。「まさか……いや、しかし、ありえないことではない」という江戸川乱歩の不気味な可能性の世界を楽しんでください。

『死者の書』折口信夫

「したしたした。」雫のつたう暗闇で目覚める「死者」。「おれはまだ、お前を思い続けて居たぞ。」古代を舞台に、折口信夫が織り上げる比類ない言語世界は読む者の肌近く幻惑する。同題をもつ草稿二篇、少年の日の眼差しを瑞瑞しく描く小説第一作「口ぶえ」を併録。

出典:Amazon「死者の書・口ぶえ(岩波文庫)」

民俗学から誕生した小説の最高傑作。題材は当麻たぎま寺の中将姫伝説。民俗学はつまらないというイメージを抱いている読者は、『死者の書』の濃厚な世界に一度触れてみてください。

『斜陽』太宰治

破滅への衝動を持ちながらも“恋と革命のため”生きようとするかず子、麻薬中毒で破滅してゆく直治、最後の貴婦人である母、戦後に生きる己れ自身を戯画化した流行作家上原。没落貴族の家庭を舞台に、真の革命のためにはもっと美しい滅亡が必要なのだという悲壮な心情を、四人四様の滅びの姿のうちに描く。昭和22年に発表され、“斜陽族”という言葉を生んだ太宰文学の代表作。

出典:Amazon「斜陽(新潮文庫)」

滅びと再生の物語。没落貴族の退廃的な美の世界。『桜の園』チェーホフと比較してみてください。

『白痴』坂口安吾

桜の森の満開の下は怖ろしい。妖しいばかりに美しい残酷な女は掻き消えて花びらとなり、冷たい虚空がはりつめているばかり―。女性とは何者か。肉体と魂。男と女。安吾にとってそれを問い続けることは自分を凝視することに他ならなかった。淫蕩、可憐、遊び、退屈、…。すべてはただ「悲しみ」へと収斂していく。

出典:Amazon「桜の森の満開の下・白痴 他十二篇(岩波文庫)」

脳天気に受け止めてはいけません。文学の中の障害者を考えるための材料として。

『金閣寺』三島由紀夫

一九五〇年七月一日、「国宝・金閣寺焼失。放火犯人は寺の青年僧」という衝撃のニュースが世人の耳目を驚かせた。この事件の陰に潜められた若い学僧の悩み――ハンディを背負った宿命の子の、生への消しがたい呪いと、それゆえに金閣の美の魔力に魂を奪われ、ついには幻想と心中するにいたった悲劇……。31歳の鬼才三島が全青春の決算として告白体の名文に綴った不朽の金字塔。

出典:Amazon「金閣寺(新潮文庫)」

三島由紀夫は単純な右翼思想家ではありません。勘違いをして、三島由紀夫を好き(嫌い)になっている読者は、三島由紀夫の抱いている「ずれ」について考えてみるのもいいかもしれない……けれども、そういうことはどうでもいい。とにかく、作品を読んでみてください。

『野火』大岡昇平

敗北が決定的となったフィリッピン戦線で結核に冒され、わずか数本の芋を渡されて本隊を追放された田村一等兵。野火の燃えひろがる原野を彷徨う田村は、極度の飢えに襲われ、自分の血を吸った蛭まで食べたあげく、友軍の屍体に目を向ける……。平凡な一人の中年男の異常な戦争体験をもとにして、彼がなぜ人肉嗜食に踏み切れなかったかをたどる戦争文学の代表的名作である。

出典:Amazon「野火(のび)(新潮文庫)」

近代戦争文学の代表作。極限状態に追い込まれた人間の手記。戦争文学は悲惨な現実を扱っているから、無意識に避けているかもしれません。でも、我々が向き合わなければならないことです。

『砂の女』安部公房

砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められる。考えつく限りの方法で脱出を試みる男。家を守るために、男を穴の中にひきとめておこうとする女。そして、穴の上から男の逃亡を妨害し、二人の生活を眺める村の人々。ドキュメンタルな手法、サスペンスあふれる展開のうちに、人間存在の極限の姿を追求した長編。20数ヶ国語に翻訳されている。読売文学賞受賞作。

出典:Amazon「砂の女(新潮文庫)」

特定の物質の徹底的な考察から誕生した『砂の女』。砂の緻密な描写に支えられながら、不条理の世界を描写しています。反日常の感覚を最初から最後まで持続するために、描写の力は必要不可欠。

『砂の女』を参考にして、あなたが興味を抱いた物質を徹底的に観察して小説を書いてみてください。

『海辺の光景』安岡章太郎

不思議なほど父を嫌っていた母は、死の床で「おとうさん」とかすれかかる声で云った──。精神を病み、海辺の病院に一年前から入院している母を、信太郎は父と見舞う。医者や看護人の対応にとまどいながら、息詰まる病室で九日間を過ごす。戦後の窮乏生活における思い出と母の死を、虚無的な心象風景に重ね合わせ、戦後最高の文学的達成といわれる表題作ほか全七編の小説集。

出典:Amazon「海辺の光景(新潮文庫)」

正統派の家族小説。海辺の精神病院で老人性認知症の母親の看病をする父親、息子の九日間の物語。単調な時の流れの中に、息子の回想がオーバーラップします。「回想」の技術を修得したいなら、非常に参考になる作品。

『海と毒薬』遠藤周作

戦争末期の恐るべき出来事――九州の大学付属病院における米軍捕虜の生体解剖事件を小説化、著者の念頭から絶えて離れることのない問い「日本人とはいかなる人間か」を追究する。解剖に参加した者は単なる異常者だったのか? どんな倫理的真空がこのような残虐行為に駆りたてたのか? 神なき日本人の“罪の意識”の不在の無気味さを描き、今なお背筋を凍らせる問題作。

出典:Amazon「海と毒薬(新潮文庫)」

遠藤周作はキリスト教をテーマにした作品を多く残しました。当然のことながら、日本文学史では、神の問題に触れている作品は少ないですが、遠藤周作は、神の不在を通して、逆説的に神の問題を追求しました。世界文学の時代、宗教の問題は避けてはいけません。

『裸の王様』開高健

とつじょ大繁殖して野に街にあふれでたネズミの大群がまき起す大恐慌を描く「パニック」。打算と偽善と虚栄に満ちた社会でほとんど圧殺されかかっている幼い生命の救出を描く芥川賞受賞作「裸の王様」。ほかに「巨人と玩具」「流亡記」。工業社会において人間の自律性をすべて咬み砕きつつ進む巨大なメカニズムが内蔵する物理的エネルギーのものすごさを、恐れと驚嘆と感動とで語る。

出典:Amazon「パニック・裸の王様(新潮文庫)」

日本の戦後社会において、抑圧に苦しむ子供を題材にしたまっすぐな作品。ただし、オチまでまっすぐな作品だったら、当時の芥川賞は受賞できていません。

『万延元年のフットボール』大江健三郎

友人の死に導かれ夜明けの穴にうずくまる僕。地獄を所有し、安保闘争で傷ついた鷹四。障害児を出産した菜採子。苦渋に満ちた登場人物たちが、四国の谷間の村をさして軽快に出発した。万延元年の村の一揆をなぞるように、神話の森に暴動が起る。幕末から現代につなぐ民衆の心をみごとに形象化し、戦後世代の切実な体験と希求を結実させた画期的長篇。谷崎賞受賞。

出典:Amazon「万延元年のフットボール(講談社文芸文庫)」

安保闘争を背景に、万延元年から昭和三五年の歴史を展望した作品。2010年代以降の日本社会において、再び読まれなければなりません。

『苦海浄土』石牟礼道子

『苦海浄土』は、「水俣病」患者への聞き書きでも、ルポルタージュでもない。患者とその家族の、そして海と土とともに生きてきた不知火の民衆の、魂の言葉を描ききった文学として、“近代”なるものの喉元に突きつけられた言葉の刃である。半世紀の歳月をかけて『全集』発刊時に完結した三部作(苦海浄土/神々の村/天の魚)を全一巻で読み通せる完全版。

出典:Amazon「苦海浄土 全三部」

資本主義社会の欺瞞だけではなく、社会運動の内側にも鋭利な視線が向けられています。同時に、優しさにあふれているから本当に不思議な作品です。

『最後の喫煙者』筒井康隆

ドタバタとは手足がケイレンし、血液が逆流し、脳が耳からこぼれるほど笑ってしまう芸術表現のことである。健康ファシズムが暴走し、喫煙者が国家的弾圧を受けるようになっても、おれは喫い続ける。地上最後のスモーカーとなった小説家の闘い「最後の喫煙者」。究極のエロ・グロ・ナンセンスが炸裂するスプラッター・コメディ「問題外科」。ツツイ中毒必至の自選爆笑傑作集第一弾。

出典:Amazon「最後の喫煙者 自選ドタバタ傑作集1(新潮文庫)」

政府が国民の「死」ではなく「生」をコントロールする時代。同時に、『最後の喫煙者』の読者側の応答に注目。溜息を禁じ得ないです。

『ねじまき鳥クロニクル』村上春樹

「人が死ぬのって、素敵よね」彼女は僕のすぐ耳もとでしゃべっていたので、その言葉はあたたかい湿った息と一緒に僕の体内にそっともぐりこんできた。「どうして?」と僕は訊いた。娘はまるで封をするように僕の唇の上に指を一本置いた。「質問はしないで」と彼女は言った。「それから目も開けないでね。わかった?」僕は彼女の声と同じくらい小さくうなずいた。(本文より)

出典:Amazon「ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編(新潮文庫)」

村上春樹の代表作。現在の若手小説家の課題は村上春樹の呪縛から解き放たれることです。村上春樹を読んだことがないにもかかわらず、村上春樹の影響を間接的に受けていることはよくあります。村上春樹にがんじがらめにならないために、むしろ、読んでください。それから、離れていってください。

おわりに

古典的な作品は出版社が積極的に電子書籍の刊行を始めています。本記事で紹介した作品も大部分は電子書籍で読むことができますね。今後も電子書籍のタイトルはどんどん追加されていき、おそらく紙媒体と電子書籍の二刀流が読書家のスタンダードになっていきます。

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