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『トロイラスとクレシダ』シェイクスピア【あらすじ】【レビュー】

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シェイクスピア 外国文学

『トロイラスとクレシダ』はシェイクスピアの戯曲。舞台はトロイ戦争。トロイの王子トロイラスと神官の娘クレシダの恋物語、アキレウスの参戦拒否という二つの大筋に分けられる。シェイクスピアの「問題劇」のひとつに数えられている。

主な登場人物

  • トロイラス
    トロイの王プライアムの息子。
  • ヘクター
    トロイの王プライアムの息子。神々の加護を受け、大活躍をする。エージャックスのいとこ。
  • パリス
    トロイの王プライアムの息子。ギリシアからヘレンを誘拐して、トロイ戦争を引き起こす。
  • カルカス
    トロイの神官、ギリシアの味方。
  • パンダラス
    クレシダの叔父。トロイラスとクレシダの恋の仲立ちをする。
  • アキリーズ
    ギリシアの将軍。参戦拒否をしている。
  • エージャックス
    ギリシアの将軍。ヘクターのいとこ。ヘクターと一騎打ちをする。
  • ダイアミディーズ
    ギリシアの将軍。クレシダを口説く。
  • サーサイティーズ
    不具で口汚いギリシア人。
  • ヘレン
    メネレーアスの妻。パリスに誘拐される。
  • クレシダ
    カルカスの娘。

あらすじ

  • プロローグ
    序詞役の口上。
  • 第一幕 第一場 トロイ、プライアムの宮殿の前
    パンダラス、トロイラス、登場。トロイラス、クレシダに恋い焦がれる。
  • 第一幕 第二場 トロイの街路
    クレシダとその召使いアレグザンダー、登場。
    パンダラス登場。パンダラス、トロイラスを褒め上げる。
  • 第一幕 第三場 ギリシア軍の陣営
    アガメムノン、ネスター、ユリシーズ、ダイアミディーズ、メネレーアス、その他登場。アキリーズの傲慢な態度を非難している。
    イーニーアス(トロイの使者)登場。ヘクターが一騎打ちを希望していることを伝える。
    ユリシーズとネスターを残して一同退場。エージャックスを利用して、アキリーズの参戦を促すために、策略を巡らす。
  • 第二幕 第一場 ギリシア軍の陣営
    エージャックス、サーサイティーズ登場。
    アキリーズ、パトロクラス登場。サーサイティーズが悪態をついている。
  • 第二幕 第二場 プライアムの宮殿
    プライアム、ヘクター、トロイラス、パリス、ヘリナス登場。ギリシアのヘレン引き渡しの要求について検討している。
    カサンドラ登場。トロイ滅亡を予言する。
  • 第二幕 第三場 ギリシア軍の陣営
    サーサイティーズ登場。
    パトロクラス登場。
    アキリーズ登場。アキリーズ、パトロクラス、サーサイティーズの悪口を楽しむ。
    アガメムノン、ユリシーズ、ネスター、ダイアミディーズ、エージャックス登場。アキリーズを説得する。アキリーズ、面会を拒否する。一同、エージャックスを褒め上げて、ヘクターと一騎打ちをするように仕向ける。
  • 第三幕 第一場 プライアムの宮殿
    パンダラスとパリスの召使い登場。パンダラスはパリスに用事がある。
    パリスとヘレン、召使いを連れて登場。ヘレン、パンダラスに歌を所望する。パンダラス、歌う。今夜、トロイラスはクレシダのところにいるため、パンダラスは、夕食のときにトロイラスの不在を国王にとりなしてくれるように、パリスに依頼する。パリス、了承する。
  • 第三幕 第二場 パンダラスの家の庭園
    パンダラスとトロイラスの小姓登場。トロイラスを呼ぶ。
    トロイラス登場。
    パンダラス退場。
    パンダラスがクレシダを連れてふたたび登場。
    パンダラス退場。トロイラスとクレシダは、キスをして、寝室に向かう。
  • 第三幕 第三場 ギリシア軍の陣営
    アガメムノン、ユリシーズ、ダイアミディーズ、ネスター、エージャックス、メネレーアス、カルカス登場。カルカス、捕虜のアンティーナ―とクレシダの交換を要求する。
    アキリーズとパトロクラス、テントの前に登場。ギリシアの将軍たちは、アキリーズによそよそしい態度を取る。
  • 第四幕 第一場 トロイの街路
    一方からイーニーアスが松明持ちの従者をともなって登場。他方からパリス、ディーフォーバス、アンティーナ―、ダイアミディーズ、松明持ちの従者たち登場。トロイの将軍たちはダイアミディーズを案内する。
  • 第四幕 第二場 パンダラスの家の中庭
    トロイラスとクレシダ登場。一緒に夜を明かした。
    パンダラス登場。二人をからかう。
    イーニーアス登場。クレシダとアンティーナ―交換の旨を伝える。
  • 第四幕 第三場 パンダラスの家の前の街路
    パリス、トロイラス、イーニーアス、ディーフォーバス、アンティーナ―、ダイアミディーズ登場。クレシダを引き取りにやってきた。
  • 第四幕 第四場 パンダラスの家
    パンダラスとクレシダ登場。トロイラス登場。トロイラスは袖をクレシダに渡し、クレシダは手袋をトロイラスに渡す。
    イーニーアス、パリス、アンティーナ―、ディーフォーバス、ダイアミディーズ登場。クレシダを引き取る。
  • 第四幕 第五場 ギリシア軍の陣営
    武装したエージャックス、つづいてアガメムノン、アキリーズ、パトロクラス、メネレーアス、ユリシーズ、ネスター、その他登場。
    ダイアミディーズがクレシダを連れて登場。ギリシアの将軍たちはクレシダにキスをする。ダイアミディーズ、クレシダとともに退場。
    武装したヘクター、つづいてイーニーアス、トロイラス、その他が従者を連れて登場。エージャックスとヘクターが一騎打ちをする。ヘクターとエージャックスは従兄弟同士であるため、決着をつけられず、ギリシアの将軍たちはヘクターをギリシアの陣営で歓迎する。トロイラスはユリシーズにクレシダの居場所を尋ねる。
  • 第五幕 第一場 ギリシア軍の陣営
    アキリーズとパトロクラス登場。サーサイティーズ登場。悪態をつく。
    ヘクター、トロイラス、エージャックス、アガメムノン、ユリシーズ、ネスター、メネレーアス、ダイアミディーズらが松明を持って登場。アキリーズ、ヘクターを歓迎する。トロイラスは、クレシダのところに向かうダイアミディーズの後を追う。
  • 第五幕 第二場 ギリシア軍の陣営
    ダイアミディーズ登場。クレシダを訪ねる。
    トロイラスとユリシーズ登場。そのあとからサーサイティーズ登場。陰から覗いている。
    クレシダ登場。ダイアミディーズがクレシダを口説く。トロイラスが狂気に憑かれ、ダイアミディースに復讐を誓う。
  • 第五幕 第三場 プライアムの宮殿の前
    ヘクターとアンドロマキ登場。
    カサンドラ登場。
    トロイラス登場。
    プライアム登場。アンドロマキ、カサンドラ、プライアムはヘクターを引き留めるが、ヘクターは出陣の用意をする。
    パンダラス登場。クレシダの手紙をトロイラスに届ける。トロイラスは手紙を無視して、出陣する。
  • 第五幕 第四場 両陣営のあいだの平原
    サーサイティーズ登場。
    ダイアミディーズとトロイラス登場。トロイラス、ダイアミディーズを追撃する。
    ヘクター登場。サーサイティーズを見逃す。
  • 第五幕 第五場 戦場の他の部分
    ダイアミディーズと召使い登場。トロイラスから馬を奪った。
    アガメムノン登場。
    ネスターとギリシア兵たち登場。パトロクラスの死体をアキリーズのところへ運んでいる。
    ユリシーズ登場。
    エージャックス登場。
    アキリーズ登場。ヘクターに復讐心を燃やしている。
  • 第五幕 第六場 戦場の他の部分
    エージャックス登場。
    ダイアミディーズ登場。
    トロイラス登場。三人戦いながら退場。
    ヘクター登場。
    アキリーズ登場。アキリーズ、剣が役立たなくなったため、撤退する。アキリーズ退場。
    トロイラスふたたび登場。イーニーアスがエージャックスに捕らえられた、と報告する。
  • 第五幕 第七場 戦場の他の部分
    アキリーズがマーミドンたちと登場。兵を鼓舞する。
    サーサイティーズ登場。メネレーアスとパリス戦いながら登場。パリスとメネレーアス退場。
    マーガレロン登場。サーサイティーズに勝負を申し込む。サーサイティーズ、逃げる。
  • 第五幕 第八場 戦場の他の部分
    ヘクター登場。
    アキリーズとマーミドンたち登場。ヘクターを斬殺する。
  • 第五幕 第九場 戦場の他の部分
    アガメムノン、エージャックス、メネレーアス、ネスター、ダイアミディーズ、その他が行進しながら登場。
  • 第五幕 第十場 戦場の他の部分
    イーニーアス、パリス、アンティーナ―、ディーフォーバス登場。
    トロイラス登場。ヘクターが殺されたことを報告する。トロイラスをのぞいて一同退場。
    パンダラス登場。トロイラス、パンダラスに悪態をついて、退場。
    パンダラス、歌う。

男の嫉妬

「セックスだ、セックス、いつだって戦争とセックスだ、ほかのものはなにひとつはやりやしねえ。どいつもこいつも梅毒にとっつかれるがいいんだ。」

『トロイラスとクレシダ』は、シェイクスピアの「問題劇」のひとつに数えられている。1609年の二種類の四折本(QAとQB)では「史劇」、1623年の二折全集では「悲劇」と呼ばれている。『トロイラスとクレシダ』は既成のジャンルから抜け落ちてしまう作品である。たしかに、トロイラスはクレシダに復讐を果たさず、トロイラスが死ぬこともない。カタルシスは起こらず、ただ、後味が悪く、気味悪い感触だけが観客に残される。

『トロイラスとクレシダ』の見所は、クレシダの裏切りを目の当たりにしたトロイラスの不気味な態度だ。印象的な台詞が第五幕第二場「あれはクレシダであってクレシダではない!」。トロイラスはクレシダがクレシダであることを認めない。そして、第五幕第十場の幕切れ、ヘクターが殺され、トロイ軍の敗色が濃くなっていくが、トロイラスは「勇気をふるっていこう、心の悲しみを復讐の望みにくるんでいこう」と、進軍する。トロイラスの態度には、悲哀と憤怒が同居している。静かで、不気味で、ぞっとするような、悲しみと怒り。

いやはや、男の嫉妬は恐ろしい。男性中心主義の世間では、「女の嫉妬は……」といわれることが多いけれども、嫉妬という感情の恐ろしさ、凄まじさは男女共通のものである。そもそも、トロイ戦争がパリスがヘレンを誘拐したことから始まっているから、『トロイラスとクレシダ』には二種類の嫉妬が描かれていることになる。メネレーアスとパリス、トロイラスとダイアミディーズの対立。サーサイティーズのいうとおり、セックスと戦争に人間が翻弄されている。

『トロイラスとクレシダ』が現代的な作品である理由のひとつとして、サーサイティーズの存在が挙げられるだろう。サーサイティーズが悪態をついているおかげで、英雄のイメージが揺らぎ、不様な人間の姿として観客の前に現れる。ユリシーズの姑息な策略、エージャックスの虚栄心、アキリーズの傲慢、然り。サーサイティーズが不具で口汚い人間として描かれていて、セックスと戦争に振り回されている不様な人間たちが、世間的には尊敬を受けている英雄たちであるというところがおもしろい。人間というものは変わらないものだ。

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