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『古事記』現代語訳のおすすめ【5選】

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古事記 日本文学

本記事では日本最古の文学作品『古事記』を現代語訳した書籍を5点紹介しています。

『古事記』とは

最強の豪族・天皇家は大化の改新(645年)や壬申の乱(672年)を経て統一国家を形成しました。中国に学び、律令による中央集権国家を目指した天皇家は、天皇家の出自、国家の由来を国内外に示し、天皇家の権威を高めるために「歴史書」を必要としました。

古事記』はヤマタノオロチ退治などの出雲系神話、他氏族が伝承していた神話・伝説を組み込み、天地創造や天孫降臨など皇室の神話を整理した「歴史書」です。上巻は神々の事績を記し、中下巻では天皇の系譜と事績が記されています。

序文によると、天武天皇の意志で稗田阿礼ひえだのあれ誦習しょうしゅうしていたものを、奈良時代初頭に元明天皇の勅命によって太安万侶おおのやすまろが漢字を用いて筆録し、和銅5年(712年)に献上しました。

『古事記』の現代語訳を選ぶときのポイント

『古事記』の現代語訳を選ぶときに注意していただきたいことがあります。

戦前、『古事記』は「歴史」として捉えられ、全国的な戦争協力体制を作るための政治的プロパガンダに利用されてきました。「単一民族国家・日本」を賛美するために、日本民族のすばらしさが誇張され、近代国家日本のルーツが遡及的に『古事記』に求められるようになりました。

そして、戦後には特定の思想に縛られることなく『古事記』を文学作品・神話として捉え、(一応のところ)純粋な古典作品として享受することができるようになりました。

しかし、戦後再出発した『古事記』は再び暗雲に覆われています。近年のナショナリズムの高揚が古事記ブームを巻き起こしたために、残念ながら、怪しい書籍が書店にずらりと並ぶことになりました。 『古事記』がきっかけになり、著者の「勉強会」に勧誘され、SNSでヘイトスピーチをまきちらすようになり、犯罪に巻き込まれ…… 引き返せないないところまでいくかもしれません。本当に注意してください。

『古事記』の現代語訳を購入するときには、著者の経歴を調べてから慎重に購入することをおすすめします。『古事記』は本当に面白い神話・伝説の宝庫です。戦争の道具として無闇に忌避する必要はないけれども、『古事記』をきっかけにしてトラブルに巻き込まれないように注意してください。

『古事記 池澤夏樹=個人編集 日本文学全集01』池澤夏樹(河出書房新社)

日本最古の文学作品を作家・池澤夏樹が新訳する。 原文の力のある文体を生かしたストレートで斬新な訳が特徴。 読みやすさを追求し、工夫を凝らした組みと詳細な脚注を付け、画期的な池澤古事記の誕生!

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池澤夏樹いけざわなつき(1945年-)は戦後世代の小説家・詩人。河出書房新社から出版されている『世界文学全集』『日本文学全集』の編纂で著名です。

『古事記』には膨大な数の神・人間の系譜が登場するため挫折する読者が多いです。本書では、固有名詞に含まれている意味を尊重して系譜を省略せず、しかしながら、同時に、様々な工夫を凝らしているため読みやすさはピカイチです。

例えば、神名・人名の羅列の部分は改行して箇条書きに、また世代が代わるごとに一字下げをしているためスムーズに系譜を把握することができます。名前の読み方はルビではなく丸括弧のなかにカタカナで表記、さらに意味が理解できるように分節化しています(例:「大江之伊邪本和気命(オホエ・ノ・イザホ・ワケのミコト)」)。二回目の登場は漢字表記にルビ(天照大御神アマテラスオホミカミ)、三回目以降は主要部分を独立させカタカナだけになっています(「アマテラス」)。

脚注では、基本的な用語の解説以外に旧国名と郡名を掲載していて土地の時間的な連続性を感じることができます。近畿地方出身の方は特におもしろいところですね。

『古事記』現代語訳の新定番。日本文学全集の第一巻に据えられているため、池澤夏樹の日本文学全集の購入を考えているなら本書がおすすめです。

『現代語訳 古事記』福永武彦(河出文庫)

「もっとも読みやすい古事記」と圧倒的支持を集める現代語訳の決定版。日本人なら誰もが知っているが、実際に読んだ読者は少ない古典中の古典を、名訳としても名高い福永武彦訳で贈る、読みやすい文庫版。

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福永武彦ふくながたけひこは(1918年-1979年)は小説家・詩人・フランス文学の研究者。上述の池澤夏樹の父親。

『古事記』現代語訳の定番。息子の池澤夏樹訳と比べたら文章は堅実であり、我々の抱いている古代世界のイメージに近いです。池澤夏樹訳は現代的な翻訳をしているため、抵抗があるならこちらのほうがいいかもしれません。福永武彦も池澤夏樹とは別のベクトルで読みやすさを追求した現代語訳になっているため、読みやすさにこだわるならこちらもおすすめです。

福永武彦の同じシリーズで『現代語訳日本書紀』(河出文庫)が出版されているため、『古事記』『日本書紀』をセットで揃えたいなら本書がおすすめです。単行本ではなく文庫本であるため、価格も非常にリーズナブルですよ。

『新釈古事記』石川淳(ちくま文庫)

この世のはじまり、国土を成さない、くらげなす、あぶらなす原初から“くに”の生成に至るまで、古事記の筆者はそれをつぶさに見て来たという。読者を信じこませるにたるその雄渾な筆致の魔力。本邦最初の文学として生み落とされた千古の文体と、夷斎を名乗る作家との出会い。正確かつ奔放な訳業によって、難解な古典も親しい読み物として、今、生命を吹きかえす。

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石川淳いしかわじゅん(明治32年 – 昭和62年)は小説家。『普賢ふげん』で芥川賞を受賞。戦時下も時流に迎合せず、戦後は無頼派の作家として活躍しました。

古事記を勉強するのではなく文学作品として楽しみたいなら本書がおすすめです。一流の小説家の個性に彩られ、自由闊達な省略と挿入によって古事記が蘇りました。しかし、基本的には原文に忠実な翻訳であるため、厳密な逐語訳にこだわらないなら心配する必要はありません。現代語訳なのだから、池澤夏樹にしても福永武彦にしても多かれ少なかれ編集はしてあるわけですから。

こちらも文庫化されているためリーズナブルなお値段で購入することができますよ。

『口語訳古事記 神代篇・人代篇』三浦佑之(文春文庫)

記紀ブームの先駆けとなった三浦版古事記が文庫に登場。語り部による親しみやすい口語体の決定版現代語訳で、おおらかな神々の物語をお楽しみ下さい。古事記研究の最前線に立った詳細な注釈や、時代背景を浮き彫りにする解説、神々の系図などを合わせて読めば、古代人の心とじかに向き合えます。古事記がこれほど面白いとは…。

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神代篇に続くのは、三十三代にわたる歴代天皇の事績と、皇子や臣下の物語です。骨肉の争いや陰謀、英雄譚など「人の代の物語」を大いに御堪能下さい。該博な知識を駆使した注釈をはじめ、地名・氏族名解説や天皇の系図、参考地図、詳細な三種の索引などを付した口語訳の完全版。読み通せば、これで古事記のすべてが分かります。

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三浦佑之みうらすけゆき(1946年-)は古代文学・伝承文学の研究者。直木賞作家・三浦しをんの父親。

「口語訳」と題名にあるとおり「語り」を意識した現代語訳になっていて、『古事記』の口承文学的側面を重視した現代語訳です。

三浦佑之は上述の著者たちとは異なり古代文学が専門分野であるため、注釈・解説・参考資料がしっかりしているところがいいですね。「古事記研究の最前線に立った詳細な注釈」「地名・氏族名解説や天皇の系図、参考地図、詳細な三種の索引」が付属しているため、『古事記』を総合的に楽しみたいなら本書がおすすめです。

ちなみに、三浦佑之は池澤夏樹の『古事記』現代語訳の監修をしていて「解題」も執筆しています。

『現代語訳古事記』蓮田善明(岩波現代文庫)

『古事記』は、人間味ゆたかな神々によって、日本国の成立していく生命力あふれる過程を描いた最も雄大な叙事詩であり、古代の神々の葛藤、闘争、恋愛の劇的な起伏を伝える物語でもある。口誦と歌謡の韻文を踏まえた豊かな文芸性に富んだ日本最古の文学書。本書は、詩人、国文学者、蓮田善明三十一歳の作品。早熟の天才の筆には微塵のためらいもなく、詩人の情熱と国文学者の精確さを兼ね備えた独自の格調高い現代語訳で、日本神話を味わう。

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蓮田善明はすだぜんめい(1904年 – 1945年)は戦前の国文学者・詩人。熱烈な皇国思想の持ち主であり、青年期の三島由紀夫に影響を与えました。敗戦直後に上官を射殺して、自らも拳銃自殺し、壮絶な死を遂げました。

戦前の人物であるため古事記研究の最前線ではないけれども、専門的な国文学者であるため信頼できますね。また蓮田善明は詩人であり、格調高い現代語訳に仕上がっていて、文学作品として鑑賞することもできます。ポップな現代語訳に抵抗があるなら本書がおすすめです。

おわりに

おすすめの『古事記』現代語訳の書籍を5点紹介しました。古事記の現代語訳は、神名・人名の羅列を処理する方法、登場人物の会話の調子、挿入と省略のバランス、および注釈・解説の政治的な視点、様々な側面が考慮されていることがわかりましたね。

本記事を参考にして、日本最古の文学『古事記』をぜひ読んでみてください。


日本文学の読書案内は「日本文学の名作【50選】源氏物語から村上春樹まで」を参考にしてください。

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