尾崎紅葉の『金色夜叉』は、明治時代を代表するベストセラー小説。間貫一と鴫沢宮子の恋愛を軸にして、金権主義と恋愛の葛藤を描写しています。
本記事では、『金色夜叉』のあらすじ、名場面、映画化作品を紹介しています。
金色夜叉 前編
高等中学校の学生、間貫一は、両親を病気で亡くしてから、鴫沢家に奇遇していた。貫一は熱心に学問に励み、鴫沢夫婦は、娘の鴫沢宮子を貫一の許嫁にしていた。 しかし、宮は貫一を裏切り、富山銀行の家督、富山唯継の求婚に応じる。
お宮の松。静岡県熱海海岸。間寛一とお宮の熱海海岸での別れの場面を再現した観光名所。
熱海に逗留していた宮を追いかけて、貫一は宮の気持ちを確かめるが、宮は富山の家に嫁に行くことをやめるつもりはない。学問を廃して、悪魔のように生きることを誓った貫一は熱海の海岸を立ち去る。追いすがる宮を貫一は蹴り飛ばして、そのまま、行方をくらました。
金色夜叉 中編
四年後、間貫一は、残酷な高利貸の鰐淵直行の手代として働いていた(アイスは高利貸の俗称。高利貸=氷菓子から)。 一方、富山唯継の妻として不幸に暮らしていた宮は、ある日、田鶴見子爵邸において、貫一に再会する。しかし、貫一は宮を無視して立ち去る。 宮は罪滅ぼしのために、貫一を鴫沢家の跡取りにしてほしい、と両親に依頼する。 夜道、貫一は借金の恨みから暴漢に襲われ重傷を負わされる。
金色夜叉 後編
貫一が入院している病院に鴫沢隆三(宮の父親)が見舞いにやってくるが、貫一は徹底的に無視をする。 鰐淵に私書偽造罪に陥れられた息子の仇を取るために、老婆が鰐淵の家に放火して、鰐淵夫婦は焼死する。
続金色夜叉
鰐淵の家業を相続した間貫一の家に宮が訪れる。宮は前非を悔いて、貫一に詫びる。 宮の訪問中、貫一に恋心を抱いている同業者の赤樫満枝が訪れ、宮を貫一の恋人と邪推する。一方、宮は満枝を貫一の内縁の妻と推察する。場の空気に耐えられず、貫一は家から逃げ出す。 夜、貫一は奇妙な夢を見た。宮が満枝を短刀で刺し殺して、自害する。ついに、貫一は宮を許し、宮の屍を背負って入水自殺を試みるが、不思議なことに、背中に負っていた宮の姿は一朶の白百合に変身していた。
続続金色夜叉
一週間後、間貫一は仕事のために野州塩原の温泉場畑下戸に出向いて、湯宿清琴楼に宿泊する。 貫一は、心中を試みていた狭山元輔、お静に出会う。 二人の事情を聞いた貫一は、借金と身請け金を肩代わりすることを約束して、心中を思いとどまらせる。
新続金色夜叉
貫一に宛てた宮の手紙(絶筆、未完)。
名場面をピックアップ
「いいか、宮さん、一月の十七日だ」
貫一とお宮の像、熱海サンビーチ。
金色夜叉前編第8章、熱海の海岸で間貫一が宮を蹴り飛ばす場面は有名。 以下、間貫一の名台詞。
「ああ、宮さんこうして二人が一処にいるのも今夜ぎりだ。お前が僕の介抱をしてくれるのも今夜ぎり、僕がお前に物を言うのも今夜ぎりだよ。一月の十七日、宮さん、よく覚えておおき。来年の今月今夜は、貫一はどこでこの月を見るのだか! 再来年の今月今夜……十年後の今月今夜……一生を通して僕は今月今夜を忘れん、忘れるものか、死んでも僕は忘れんよ! いいか、宮さん、一月の十七日だ。来年の今月今夜になったならば、僕の涙で必ず月は曇らして見せるから、月が……月が……月が……曇ったらば、宮さん、貫一はどこかでお前を恨んで、今夜のように泣いていると思ってくれ」
やはり、台詞の力は侮れない。江戸戯作の伝統を現代文学に活かせないものだろうか。
老婆の放火
金色夜叉後編第7章、鰐淵直行に私書偽造罪に陥れられた息子の仇を取るために、老婆が鰐淵の家に放火をする。
「風の暴れしきる響動に紛れて、寝耳にこれを聞きつくる者もなかりければ、誰一人出でさわがざる間に、火はめらめらと下屋に延きて、厨の燃え立つ底より一声叫喚せるは誰、狂女は嘻々として高く笑いぬ」
大切な息子を失い、狂乱状態に陥った老婆の凄まじさが滲み出ている。鬼気迫る光景。
白百合の夢
続金色夜叉第八章、鴫沢宮と赤樫満枝が同時に訪問した日の夜、間貫一は奇妙な夢を見る。
「さらば往きて汝の陥りし淵に沈まん。沈まばもろともと、彼は宮が屍を引き起して背に負えば、その軽きこと一片の紙に等し。怪しと見返れば、さらに怪し! 芳芬鼻を撲ちて、一朶の白百合大いさ人面のごときが、満開の葩を垂れて肩にかかれり。不思議に愕くとすれば目覚めぬ。覚むれば暁の夢なり。」
夢の描写の成功例。当然、読者は最初から夢とわかっていながら読み進めていくけれども、現実と夢の落差が激しく、間貫一の態度が敢然としていて気持ち良い。 最後はだらだらと引き伸ばさない。余韻の置き方が見事。
『金色夜叉』の映画化作品
最後に、『金色夜叉』の映画化作品を紹介。現在、気軽に入手できる作品として、松竹日本映画傑作選シリーズのDVDがオススメです。