『間違いの喜劇』はシェイクスピアの初期の喜劇作品。幼少の頃、生き別れになった双子の兄弟アンティフォラスと、双子の召使いドローミオがエフェサスの街で騒動を繰り広げる。
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登場人物
- アンティフォラス兄
イージオンとエミリアの息子。エフェサスの住人。 - アンティフォラス弟
イージオンとエミリアの息子。7年前、シラキュースで父と別れ、ドローミオ弟と一緒に兄を探すために旅に出て、エフェサスに辿り着く。 - ドローミオ兄
アンティフォラス兄の召使い。 - ドローミオ弟
アンティフォラス弟の召使い。 - イージオン
シラキュースの商人。エフェサスで法律違反をして、死刑宣告を受けている。 - エドリエーナ
アンティフォラス兄の妻 - ルシアーナ
エドリエーナの妹 - エミリア
エフェサスの修道女院院主。イージオンの妻。
あらすじ
- 第一幕 第一場
エフェサスの公爵ソライナス、シラキュースの商人イージオン、牢番、従者たち登場。イージオン、死刑宣告を受け、刑場に連れていかれる。公爵に過去のいきさつを語り、嘆願する。ソライナス、死刑執行に一日の猶予を与える。 - 第一幕 第二場
シラキュースのアンティフォラス弟、商人1、ドローミオ弟登場。ドローミオ弟、アンティフォラス弟から、金を預かって、先に、宿泊先に帰っていく。ドローミオ弟、退場。ドローミオ兄、登場。アンティフォラス弟を兄と勘違いして、食事の準備ができているから、館に帰ってくるように、と伝言をする。 - 第二幕 第一場
エフェサスのアンティフォラス兄の妻エドリエーナ、その妹ルシアーナ登場。エドリエーナとルシアーナ、アンティフォラス兄の帰宅を待っている。ドローミオ兄が帰ってきて、旦那様の様子がおかしい、と報告をする。エドリエーナ、旦那の浮気を疑う。 - 第二幕 第二場
アンティフォラス弟、ドローミオ弟と再会する。当然、話が食い違う。エドリエーナ、ルシアーナ、登場。エドリエーナはアンティフォラス弟に向かって、不義を責め立てる。アンティフォラス弟、身に覚えはないが、とりあえず、話を合わせて、エドリエーナの館に食事に向かう。 - 第三幕 第一場
エフェサスのアンティフォラス兄、その召使いドローミオ兄、金細工師アンジェロ、商人バルターザー登場。アンティフォラス兄は、アンジェロとバルターザーを食事に招待する。しかし、門番をしているドローミオ弟に門前払いを食らう。門の内側と外側に分かれているため、互いに姿を確認することはできない。仕方がなく、アンティフォラス兄はポーペンタイン亭にバルターザーと食事に行き、アンジェロに首飾りをポーペンタイン亭に届けてほしい、と依頼する。 - 第三幕 第二場
ルシアーナ、アンティフォラス弟登場。アンティフォラス弟、ルシアーナに惚れている。しかし、ドローミオ弟と相談して、街を出ることにする。アンジェロ、登場。兄と勘違いをして、首飾りをアンティフォラス弟に渡してしまう。 - 第四幕 第一場
商人2、金細工師アンジェロ、警吏登場。アンジェロ、首飾りの代金をアンティフォラス兄に請求する。当然、アンティフォラス兄は、首飾りは受け取っていない、と主張する。警吏、アンティフォラス兄を逮捕する。ドローミオ弟、登場。アンティフォラス兄は、ドローミオ弟に保釈金を館から持ってくるように、命令する。ドローミオ弟、とりあえず、命令に従う。 - 第四幕 第二場
エドリエーナ、ルシアーナ登場。 ルシアーナ、アンティフォラス兄に口説かれた、とエドリエーナに報告する。ドローミオ弟、登場。旦那様が逮捕されたことを知らせる。 - 第四幕 第三場
アンティフォラス弟、登場。 アンティフォラス弟、ドローミオ弟と合流する。やはり、話が食い違う。娼婦、登場。アンティフォラス弟を兄と勘違いしている。娼婦はアンティフォラスに渡した指輪を取り戻そうとするが、当然、アンティフォラス弟には身に覚えがない。 - 第四幕 第四場
アンティフォラス兄、警吏とともに登場。ドローミオ兄、登場。やはり、話が食い違う。 エドリエーナ、ルシアーナ、娼婦、教師ピンチ登場。一同は、アンティフォラス兄は気が狂っている、と思っている。教師ピンチがおまじないでアンティフォラス兄の体から悪魔を追い払おうとする。ドローミオ兄も気が狂っていると思われ、二人は縛られて、連れていかれる。アンティフォラス弟、ドローミオ弟、抜剣を手にして登場。二人が縄を抜けて仕返しにやってきた、と一行は勘違いする。 - 第五幕 第一場
商人2、金細工師アンジェロ登場。アンティフォラス弟、ドローミオ弟、登場。商人2とケンカになり、修道女院の中に逃げ込む。修道女院院主エミリア、登場。アンティフォラス弟の狂気は自分が治療すると主張して、他の者は修道女院の中に立ち入らせない。エフェサスの公爵、ソライナス登場。イージオンも連れている。エドリエーナ、修道女院から夫を連れ出してもらえるように、公爵に嘆願する。召使い、登場。アンティフォラス兄とドローミオ兄が暴れているため、エドリエーナに逃げるように忠告する。アンティフォラス兄、ドローミオ兄登場。一同は、それぞれの主張を公爵に訴える。当然、証言はばらばらである。イージオン、アンティフォラス兄、ドローミオ兄を、アンティフォラス弟、ドローミオ弟と勘違いする。院主、アンティフォラス弟、ドローミオ弟を連れてくる。院主、イージオンを認める。修道女院院主の正体は、イージオンの妻エミリアだった。エミリアたちはエピダムナムの人たちに救われたが、まもなく、コリントの漁師たちにアンティフォラス兄とドローミオ兄をさらわれたという。誤解が解けて、一同は祝宴を開く。
喜劇の中の恐怖
「おれたちは幻の世界にまよいこんだらしい―天の力でここから逃げ出すことができますよう!」
G・R・エリオットは「『間違いの喜劇』における気味悪さ」という論文において、「喜劇的恐怖」を指摘している。『間違いの喜劇』が喜劇であることは間違いないが、確かに不気味な雰囲気がある。自分が自分ではないという恐怖だ。
想像していただきたい。突然、街の中で赤の他人から「やあ、昨日は楽しかったね」と声をかけられる。「こいつは頭がおかしいや」と周りの人間に確認してみたら、どうやら頭がおかしくなっているのは自分のほうであるらしい。挙句の果てには狂人扱いされ病院に連れていかれる。恐怖以外の何物でもない。
『間違いの喜劇』はプラウトゥスの『メナエクムス兄弟』に負っているけれども、シェイクスピアは舞台設定をエピダムヌスからエフェサスに変更している。聖書では使徒言行録19章において、パウロがエフェサス(エフェソ)の街で悪霊を退治している。またエフェサスの魔術師たちもパウロによって信仰に目覚め、魔術書を焼き払ったという。
アンティフォラス弟が「悪魔」「魔女」「幻」という台詞を繰り返すことから、エフェサスを不気味な街として恐れていることがわかる。『間違いの喜劇』を単純なコメディとして捉えるのではなく、「恐怖」という喜劇の反対物から捉えている点が非常に興味深い。