主な登場人物
- ケーアス・マーシャス、のちにケーアス・マーシャス・コリオレーナス
ローマの貴族。 - メニーニアス・アグリッパ
コリオレーナスの友人。 - シシニアス・ヴェリュータス
護民官。 - ジューニアス・ブルータス
護民官。 - タラス・オーフォディアス
ヴォルサイの将軍。 - ヴォラムニア
コリオレーナスの母。 - ヴァージリア
コリオレーナスの妻。
あらすじ
- 第一幕 第一場 ローマ、街路
暴動を起こした市民の一群が、棒きれ、棍棒、その他の武器を手にして登場。ケーアス・マーシャスを罵っている。
メニーニアス・アグリッパ登場。市民たちを説得する。
ケーアス・マーシャス登場。市民たちに悪態をつく。
使者、いそいで登場。ヴォルサイ人の挙兵を報告する。
コミニアス、タイタス・ラーシャス、その他の元老院議員たち、ジューニアス・ブルータス、シシニアス・ヴェリュータス登場。一同、議事堂へ向かう。
シシニアスとブルータスを残して一同退場。マーシャスを罵る。 - 第一幕 第二場 コリオライ、元老院
タラス・オーフォディアス、コリオライの元老院議員たちとともに登場。オーフォディアス、出陣する。 - 第一幕 第三場 ローマ、マーシャスの邸の一室
マーシャスの母ヴォラムニア、妻ヴァージリア登場。
ヴァレーリア登場。マーシャスがヴォルサイの首都コリオライを攻めていることを伝える。 - 第一幕 第四場 コリオライ、城門の前
マーシャス、タイタス・ラーシャス、隊長たち、兵士たち、太鼓やラッパや旗とともに登場。そこに使者登場。戦闘が始まる。マーシャスはコリオライの城門の中に閉じ込められ、孤軍奮闘する。
タイタス・ラーシャス登場。城門が開かれ、マーシャスが追撃から逃れている。 - 第一幕 第五場 前場に同じ
数人のローマ人が略奪品をもって登場。
マーシャス、タイタス・ラーシャス、ラッパ手を伴って登場。ローマ人たちはこそこそと退場。マーシャス、コミニアス救援に向かう。 - 第一幕 第六場 ローマ軍陣営の近く
コミニアス、退却しつつ兵士たちとともに登場。
使者登場。
マーシャス登場。傷だらけの姿。コミニアスの無事を確認して、オーフォディアス軍攻撃に向かう。 - 第一幕 第七場 コリオライの城門の前
タイタス・ラーシャスは、コリオライに守備隊を配したあと、太鼓やラッパを先頭にコミニアスとケーアス・マーシャスの救援に行くところであるが、副官、兵士たち、斥候一名を従えて登場。 - 第一幕 第八場 ローマ軍の陣営の近く
戦闘を告げるラッパの音。マーシャスとオーフォディアスが左右から登場。マーシャスとオーフォディアスが戦う。 - 第一幕 第九場 前場に同じ
華やかなラッパの吹奏。戦闘を告げるラッパの音。退陣を告げるラッパの音。一方からコミニアスがローマ軍を率いて登場、他方からマーシャスが片腕を布で吊って登場。
タイタス・ラーシャスが、追撃を終えて、軍勢を率いて登場。一同、マーシャスの戦功を称える。コミニアスは、ケーアス・マーシャス・コリオレーナスの称号を贈る。 - 第一幕 第十場 ヴォルサイ軍の陣営
華やかなコルネットの吹奏。タラス・オーフォディアスが血にまみれ、二、三の兵士を伴って登場。 - 第二幕 第一場 ローマ、広場
メニーニアス、二人の護民官シシニアスとブルータスを伴って登場。
ヴォラムニア、ヴァージリア、ヴァレーリア登場。
壮麗なラッパの吹奏。コミニアス将軍とタイタス・ラーシャスが、柏の冠をいただくコリオレーナスをはさんで登場、隊長たち、兵士たち、伝令があとに続く。
コルネットの華やかな吹奏。登場のときと同じように堂々と一同退場。ブルータスとシシニアスが前に出てくる。ブルータスとシシニアスは、コリオレーナスを陥れるために策略を企てる。 - 第二幕 第二場 ローマ、議事堂内の元老院
二人の役人登場、座布団を並べる。
壮麗なラッパの吹奏。警護のものたちを先頭に、貴族たち、護民官たち登場。続いてコリオレーナス、メニーニアス、執政官コミニアス登場。シシニアスとブルータスは勝手に席に着く。元老院はコリオレーナスを執政官に推薦する。コリオレーナスは嫌々ながら、しきたりにしたがって、粗末な外衣を身につけ、市民に傷を見せ、執政官の承認を受けるために街に出かける。
華やかなコルネットの吹奏。シシニアスとブルータスを残して一同退場。 - 第二幕 第三場 ローマ、広場
七、八人の市民たち登場。
コリオレーナスが謙虚のしるしである粗末な外衣を身につけ、メニーニアスとともに登場。
メニーニアス退場。市民たちはコリオレーナスを執政官に推薦する。市民たち退場。
メニーニアス、ブルータスとシシニアスを伴って登場。
コリオレーナスとメニーニアス退場。
市民たちふたたび登場。ブルータスとシシニアスは市民たちを扇動して、コリオレーナスの執政官就任を撤回させるために、暴動を引き起こす。 - 第三幕 第一場 ローマ、街路
コルネットの吹奏。コリオレーナス、メニーニアス、貴族たち、コミニアス、タイタス・ラーシャス、元老院議員たち登場。
シシニアスとブルータス登場。広場で民衆が暴動を起こしていることを伝える。シシニアスとブルータスはコリオレーナスを挑発し、怒り狂わせて、警保官にコリオレーナスの逮捕を命じる。
警保官とともに平民の一群登場。一同、コリオレーナスを中心に騒ぐ。この騒ぎの結果、護民官、警保官、民衆たちは敗れ、退場。一旦、コリオレーナスは家に帰る。
メニーニアス、コリオレーナスとともに退場。
ブルータスとシシニアス、群衆とともにふたたび登場。コリオレーナスを探している。メニーニアスが、穏便に法律に従って、コリオレーナスの処分を決めるように説得する。ブルータスとシシニアスは承諾する。 - 第三幕 第二場 ローマ、コリオレーナスの邸
コリオレーナス、貴族たちとともに登場。
ヴォラムニア登場。
メニーニアスが元老院議員たちとともに登場。
コミニアス登場。ヴォラムニアたちは、護民官たちに謝罪をして、暴動を鎮めるようにコリオレーナスを説得する。嫌々ながら、コリオレーナスは承諾をして、広場に向かう。 - 第三幕 第二場 ローマ、広場
シシニアスとブルータス登場。警保官登場。警保官退場。
コリオレーナス、メニーニアス、コミニアス、元老院議員たち、貴族たち登場。
警保官、民衆たちを連れてふたたび登場。シシニアスとブルータスはコリオレーナスを挑発して、コリオレーナスは怒り、民衆を侮辱する。コリオレーナスの追放が決定する。
コリオレーナス退場、コミニアス、メニーニアス、元老院議員たち、貴族たちがあとに続く。 - 第四幕 第一場 ローマ、城門の前
コリオレーナス、ヴォラムニア、ヴァージリア、メニーニアス、コミニアス、ローマの若い貴族たちとともに登場。 コリオレーナスが旅立つ。 - 第四幕 第二場 ローマ、城門近くの街路
シシニアスとブルータスが警保官とともに登場。警保官退場。
ヴォラムニア、ヴァージリア、メニーニアス登場。ヴォラムニア、シシニアスとブルータスを罵倒する。 - 第四幕 第三場 ローマとアンシャムのあいだの街道
ローマ人とヴォルサイ人が左右から別々に登場。ローマ人はコリオレーナス追放の情報をヴォルサイ人に伝える。 - 第四幕 第四場 アンシャム、オーフォディアスの邸の前
コリオレーナスが粗末な服で変装し、頭を包んで登場。
市民登場。コリオレーナスは市民にオーフォディアスの邸の場所を尋ねる。 - 第四幕 第五場 アンシャム、オーフォディアスの邸の玄関広間
音楽。召使い1登場。召使い1退場。
召使い2登場。召使い2退場。
コリオレーナス登場。
召使い1、酒をもってふたたび登場。召使い1退場。
召使い2ふたたび登場。
召使い3が召使い1とともに登場。召使い1退場。召使い2退場。
コリオレーナス、召使い3をたたき出す。
オーフォディアスが召使いとともに登場。召使い2退場。
オーフォディアスはマーシャスを歓迎して、協力する。 オーフォディアス、コリオレーナスを案内して退場。
召使い1、2登場。召使い3登場。 - 第四幕 第六場 ローマ、広場
二人の護民官、シシニアスとブルータス登場。
メニーニアス登場。
警保官登場。ヴォルサイ軍侵入の報告をする。
使者登場。マーシャスがオーフォディアスと手を握り、ローマに復讐を誓っているという噂を報告する。
使者2登場。マーシャスがオーフォディアスと手を組み、領土を荒らし回っていることを報告する。
コミニアス登場。
市民たちの一群登場。口々にコリオレーナスを追放したことについて、言い訳をする。 - 第四幕 第七場 ローマに近い陣営
オーフォディアスが副官とともに登場。マーシャスの傲慢な態度について話している。 - 第五幕 第一場 ローマ、広場
メニーニアス、コミニアス、護民官シシニアス、ブルータス、その他登場。コミニアスはマーシャスの説得に向かったが、追い返されてしまった。次に、メニーニアスがマーシャスの説得に向かう。 - 第五幕 第二場 ローマに近いヴォルサイ軍陣営の入り口
メニーニアス登場、衛兵たちのところに行く。衛兵たちはメニーニアスを通さない。
コリオレーナスがオーフォディアスとともに登場。コリオレーナスはメニーニアスを追い返す。 - 第五幕 第三場 コリオレーナスの陣営
コリオレーナス、オーフォディアス、その他登場。
ヴァージリア、ヴォラムニア、ヴァレーリア、小マーシャスが、従者たちとともに登場。ヴォラムニアたちはコリオレーナスに戦争を止めるように懇願する。ついに、コリオレーナスは心を動かされ、承諾する。 - 第五幕 第四場 ローマ、城門に近い街路
メニーニアスとシシニアス登場。
使者登場。
第二の使者登場。ヴォルサイ軍が撤退したことを報告する。 - 第五幕 第五場 ローマ、城門の前
元老院議員たち、貴族たち、民衆たちが、使者に立った婦人たちとともに登場。一同、婦人たちを褒め称える。 - 第五幕 第六場 コリオライ、広場
タラス・オーフォディアスが従者たちとともに登場。
オーフォディアス一派の共謀者たち三、四名登場。
コリオライの貴族たち登場。
コリオレーナスが、太鼓や旗を先頭に行進しながら登場、平民たちがあとに続く。オーフォディアスは、コリオレーナスを非難する。共謀者たちは剣を抜き、コリオレーナスを殺す。オーフォディアスは倒れた死体に足をかけて立つ。貴族たち、および、怒りを鎮めたオーフォディアスはコリオレーナスを丁重に弔うために、遺体を運んでいく。
政治劇の運命
「彼の高潔な生涯は人々の心に長くとどめねばならぬ。さあ、手を貸してくれ」
まず第一に『コリオレーナス』は、政治劇である。ただし、『コリオレーナス』を民主主義と貴族主義の二項対立によって、図式的に眺めてしまったら、観客はコリオレーナスに共感せず、衆愚政治をテーマにした風刺劇として受け止めることだろう。しかし、『コリオレーナス』は間違いなく悲劇であり、コリオレーナスは偉大な英雄である。
本作品の評価は、コリオレーナスの評価に懸かっている。したがって、貴族という政治的属性を有しているコリオレーナスが、民主主義の台頭以降の批評史において、誤解され、性格上の「弱点」をあげつらわれ、故に、作品自体も不当な評価を受けていることも仕方がないことだろう。
しかし、シェイクスピアが、コリオレーナスの理解者としてメニーニアスを配置したことは忘れてはいけないだろう。『ハムレット』のホレイショーに対応する人物である。偉大な人物の側には、人数は少ないながら、優れた人物が控えているものだ。もし、コリオレーナスが本当に傲慢な人間だったら、メニーニアスはコリオレーナスを弁護しているだろうか。メニーニアスはコリオレーナスが高潔な人物であることの証明である。
最後に、政治劇の運命について考えたい。「きれいはきたない、きたないはきれい」ではないけれども、言葉は逆転する。400年前にシェイクスピアは看破していた。コリオレーナスの高潔な性格を、護民官は傲慢だと非難する。ヴォラムニアは、コリオレーナスの崇高な性格を頑固な性格と誤解する。そして、現代の読者は、まさしく、護民官の、ヴォラムニアの語彙を用いて、コリオレーナスを批評する。『コリオレーナス』が政治的プロパガンダとして、ファシズムに、マルキシズムに変容するという歴史的事実は象徴的である。『1984年』然り、政治的作品は皮肉な運命を辿ることになる。
ところで、コリオレーナスの理解者はメニーニアスと貴族たちだけではない。オーフォディアスもコリオレーナスの理解者だ。オーフォディアスはコリオレーナス殺害後に、怒りが消え去り、コリオレーナスを丁重に弔う。だから、コリオレーナスはオーフォディアスを恨んでいないだろう。コリオレーナスが本当に嫌悪している連中は護民官と市民なのだから。