主な登場人物
- ヴィンセンシオ
公爵。 - アンジェロ
公爵の代理。 - クローディオ
若い紳士。 - イザベラ
クローディオの妹。 - ジュリエット
クローディオの愛人。 - マリアナ
アンジェロの許嫁。
あらすじ
- 第一幕 第一場 公爵の宮殿の一室
公爵、エスカラス、貴族たち、従者たち、登場。
アンジェロ、登場。公爵、ウィーン不在の間、公爵代理をアンジェロに一任して、出発する。 - 第一幕 第二場 街路
ルーシオ、二人の紳士、登場。
女将オーヴァーダン、登場。オーヴァーダン、クローディオが監獄に連れていかれるところを目撃する。
ポンピー、登場。
典獄、クローディオ、ジュリエット、役人たち、登場。クローディオを連行している。
ルーシオ、二人の紳士、登場。クローディオ、修道院からイザベラを連れてくるようにルーシオに依頼する。 - 第一幕 第三場 修道院
公爵、修道士トマス、登場。実は、公爵はウィーンを離れておらず、修道士に変装してアンジェロの統治を観察することが目的だった。 - 第一幕 第四場 女子修道院
イザベラ、フランシスカ、登場。
ルーシオ、登場。クローディオが死刑宣告を受けたことをイザベラに伝える。 - 第二幕 第一場 アンジェロの邸の広間
アンジェロ、エスカラス、判事、典獄、役人たち、従者たち、登場。アンジェロ、クローディオの処刑を明朝九時に執行するように典獄に命令する。
エルボーと役人たち、フロスとポンピーを連れて登場。 - 第二幕 第二場 同じ邸の他の一室
典獄と召使い、登場。
アンジェロ、登場。典獄、アンジェロにクローディオの減刑を懇願する。
イザベラとルーシオ登場。クローディオの減刑を嘆願する。アンジェロ、イザベラに心を奪われる。 - 第二幕 第三場 監獄の一室
修道士に変装した公爵と典獄が別々に登場。
ジュリエット、登場。公爵、ジュリエットから事情を聞く。 - 第二幕 第四場 アンジェロの邸の一室
アンジェロ、登場。
イザベラ、登場。アンジェロは、クローディオの死刑撤回と引き換えに、イザベラに処女を捧げることを要求する。イザベラは拒否する。 - 第三幕 第一場 監獄の一室
変装した公爵、クローディオ、典獄、登場。公爵、クローディオに死を覚悟するように諭す。
イザベラ、登場。イザベラは、アンジェロの要求をクローディオに説明する。
公爵、典獄、退場。公爵はクローディオとイザベラの会話を物陰から聞いている。
公爵ふたたび登場。アンジェロの許嫁マリアナが、持参金を失ったため、アンジェロに捨てられたことを説明して、「ベッド・トリック」を提案する。 - 第三幕 第二場 監獄の前の街路
一方から変装した公爵、他方からエルボー、およびポンピーを連れた役人たち登場。
ルーシオ、登場。公爵を侮辱する。
エスカラス、典獄、女将オーヴァーダンを連れた役人たち登場。 - 第四幕 第一場 セント・ルーク村の塀に囲まれた農家
マリアナと少年、登場。
変装した公爵、登場。
イザベラ、登場。「ベッド・トリック」を計画する。 - 第四幕 第二場 監獄の一室
典獄とポンピー、登場。
アブホーソン、登場。ポンピー、死刑執行人の手伝いをすることになる。
クローディオ、登場。
変装した公爵、登場。クローディオの身代わりとして、バーナーダインの首を公爵代理に届けるように、典獄に依頼する。 - 第四幕 第三場 監獄の他の一室
ポンピー、登場。
アブホーソン、登場。
バーナーダイン、登場。
変装した公爵、登場。バーナーダイン、強情な態度を取る。
典獄、登場。クローディオの身代わりとして、ラゴジンの首を届けることにする。
イザベラ、登場。
ルーシオ、登場。公爵を侮辱する。 - 第四幕 第四場 アンジェロの邸の一室
アンジェロとエスカラス、登場。公爵の手紙を読む。 - 第四幕 第五場 郊外の野原
常服にもどった公爵と修道士ピーター、登場。 - 第四幕 第六場 大門近くの街路
イザベラとマリアナ、登場。
修道士ピーター、登場。 - 第五幕 第一場 市の大門
ヴェールをつけたマリアナ、イザベラ、修道士ピーターが位置につく。公爵、ヴァリアス、アンジェロ、エスカラス、貴族たち、ルーシオ、典獄、役人たち、市民たちがそれぞれの方角から登場。アンジェロとエスカラスは公爵を迎える。
イザベラ、公爵にアンジェロの行状を訴える。公爵、役人たちにイザベラを連行させる。
マリアナ、進み出る。ヴェールを取る。公爵、退場。
イザベラ、再び登場。修道士に変装した公爵、再び登場。変装を解き、「ベッド・トリック」の種明かしをする。アンジェロとマリアナを結婚させ、アンジェロに死刑宣告をする。
バーナーダイン、顔をかくしたクローディオ、およびジュリエットを連れて典獄ふたたび登場。クローディオの覆面をとる。クローディオが生きているため、公爵は、アンジェロの死刑宣告を取り消す。公爵はイザベラに求婚する。公爵はルーシオを処罰する。
法と人間の問題
「早急には早急を、猶予には猶予を、類には類を、尺には尺をもって報いるのが不変の法の精神だ」
『尺には尺を』は、シェイクスピアの「問題劇」のひとつに数えられている。結末部において、観客の我々は曖昧な反応をする。公爵の最後の台詞、「おまえたちに聞かせたい話がまだ残っておる」ではないけれども、まだ、語られていないものがある。我々には、もやもやとした感覚が残っている。めでたし、めでたし、で終わらせるわけにはいかないのだ。現代的な作品である。
『尺には尺を』の重要な主題のひとつは、法律と人間性の問題である。日本では、菊池寛が「ある抗議書」、「島原心中」などの作品で、法の問題を取り上げた。菊池寛の作品の場合、機械的に作動する近代法と人間性の対立を描写する。しかし、『尺には尺を』に登場する法律は、近代法とは異なり、支配者(公爵、および、公爵代理)の意志によって、自由自在に変形する法律である。
だから、独善的な人物が法律を運用するなら、市民は不幸に見舞われる。しかし、独善的な人物はアンジェロだけではないのだ。おそらく、現代の観客は、公爵ヴィンセンシオの行動に疑問を感じるだろう。はたして、ルーシオの処罰は妥当だろうか。日本人だったら、公爵ヴィンセンシオの変装から、水戸黄門を連想するかもしれない。もし、水戸黄門が自分を侮辱している人間を見つけて、厳重に処罰したら、後味が悪くないだろうか。そもそも、権力者が変装していなかったら、市民は罪を犯すことにはならなかっただろう。つまり、公爵の行動は、不必要な罪を作っているわけだ。
結末部、公爵はイザベラに求婚する。イザベラは返事をしていない。無言の承諾、と捉えられるかもしれない。もしかしたら、当時の観客は、公爵の求婚をハッピーエンドとして受け止めたかもしれない。しかし、テクストは無限に拡がっている。第五幕第一場で、公爵は次々に処罰を下し、命令を下す。そして、イザベラに求婚するのだ。アンジェロが代理の権力で奪い取ることができなかったイザベラを、公爵ヴィンセンシオは本物の権力で奪い取る。公爵の評価によって、『尺には尺を』の解釈は千差万別のものになるだろう。