『恋の骨折り損』はシェイクスピアの喜劇作品。ナヴァール王ファーディナンド、貴族ビローン、ロンガヴィル、デュメーンは、「三年間、学問に励み、女性に会うべからず」という誓約書に署名をする。しかし、彼らは、フランスからアキテーヌの領地返還請求のために訪れていたフランス王女と貴婦人の一行に恋をしてしまう。
登場人物
- ファーディナンド
ナヴァール王。フランス王女に恋をする。 - ビローン
ナヴァール王に仕える貴族。ロザラインに恋をする。 - ロンガヴィル
ナヴァール王に仕える貴族。マライアに恋をする。 - デュメーン
ナヴァール王に仕える貴族。キャサリンに恋をする。 - フランス王女
アキテーヌの領地返還請求のために、ナヴァールを訪れる。 - ロザライン
フランス王女に仕える貴婦人。 - マライア
フランス王女に仕える貴婦人。 - キャサリン
フランス王女に仕える貴婦人。 - ダル
警吏 - コスタード
田舎者 - ジャケネッタ
田舎娘 - ドン・エードリアーノー・デ・アーマードー
ふう変わりなスペイン人 - ナサニエル
村の神父 - ホロファニーズ
学校教師 - ボイエット
フランス王女に仕える貴族 - マーケード
フランス王女に仕える貴族
あらすじ
- 第一幕 第一場 ナヴァール王宮の庭園
ナヴァール王ファーディナンド、ビローン、ロンガヴィル、デュメーン登場。「三年間、学問に励み、女性に会わないこと」を誓約する。
警吏ダルと田舎者コスタード登場。ダルはドン・エードリアーノー・デ・アーマードーからの告発状を王に届ける。コスタードは法令に違反してジャケネッタとデートをしていたのだ。王はコスタードをアーマード―に引き渡すことにした。 - 第一幕 第二場 同じ場所
アーマードーと小姓モス登場。アーマードーは恋に悩んでいる。
ダル、コスタード、ジャケネッタ登場。ダルはコスタードをアーマードーに引き渡す。アーマードーはジャケネッタを口説く。 - 第二幕 第一場 同じ場所
フランス王女、ロザライン、マライア、キャサリン、ボイエット登場。ロンガヴィル、デュメーン、ビローンの噂話をしている。
王、ロンガヴィル、デュメーン、ビローン登場。フランス王女たちを歓迎する。ファーディナンドはフランス王女に、デュメーンはキャサリンに、ロンガヴィルはマライアに、ビローンはロザラインに恋をする。 - 第三幕 第一場 同じ場所
アーマードー、モス、コスタード登場。アーマードーはコスタードを釈放して、田舎娘のジャケネッタに手紙を届けさせる。アーマードー、モス、退場。
ビローン登場。ビローンはコスタードに依頼して、ロザラインに手紙を届けさせる。 - 第四幕 第一場 同じ場所
フランス王女、マライア、キャサリン、ロザライン、ボイエット登場。
コスタード登場。ジャケネッタ宛のアーマードーの手紙をロザラインに渡してしまう。フランス王女たちはコスタードの手違いに気づく。 - 第四幕 第二場 同じ場所
学校教師ホロファニーズ、神父ナサニエル、ダル登場。ホロファニーズ、ナサニエル、衒学的な会話をしながらダルをからかっている。
ジャケネッタ、コスタード登場。ジャケネッタはコスタードが持ってきた手紙を読んでくれるように、ナサニエルにお願いする。ビローンのロザライン宛の手紙である。ホロファニーズは誤配に気づき、王に手紙を渡すように言いつける。 - 第四幕 第三場
ビローン登場。愛の傍白をする。
王登場。ビローンは木に登って隠れる。王は愛の傍白をする。
ロンガヴィル登場。王はものかげに隠れる。ロンガヴィルは愛の傍白をする。
デュメーン登場。ロンガヴィルはものかげに隠れる。デュメーンは愛の傍白をする。
ロンガヴィルは姿を現し、デュメーンを責める。
王は姿を現し、デュメーンとロンガヴィルを責める。
ビローンは姿を現し、王とデュメーンとロンガヴィルを責める。
ジャケネッタ、コスタード登場。ビローンのロザライン宛の手紙をビローンに渡す。ビローンは手紙を引き裂くが、結局、ビローンもロザラインに恋をしていたことがばれてしまい、四人は開き直り、フランス王女と貴婦人たちを口説くことにした。 - 第五幕 第一場
ホロファニーズ、ナサニエル、ダル、登場。
アーマードー、モス、コスタード、登場。フランス王女一行をもてなすために、「九人の英雄伝」を上演することにする。 - 第五幕 第二場
王女、マライア、キャサリン、ロザライン登場。王、ロンガヴィル、デュメーン、ビローンから贈り物が届けられている。
ボイエット登場。王たちがロシア風のダンスパーティを計画していることをフランス王女に報告する。王女たちは、男たちをからかうために、仮面をつけて、贈り物を交換し、別の相手を口説くように仕向ける。
モス、王、ビローン、ロンガヴィル、デュメーンがロシア人の服装で仮面をつけて登場。王はロザラインを、ビローンは王女を、デュメーンはマライアを、ロンガヴィルはキャサリンを口説いてしまう。王たち退場。
王女たち退場。
王、ビローン、ロンガヴィル、デュメーンが本来の服装でふたたび登場。ボイエットに王女たちを連れてこさせる。
ボイエットに案内されて、王女、ロザライン、マライア、キャサリンがふたたび登場。女たちは男たちをからかう。王たちは、変装を見破られ、自分たちが間違った女性を口説いていたことに気づく。
コスタード、アーマードー、ナサニエル、ホロファニーズ登場。演劇を披露するが、さんざんにからかわれる。コスタードとアーマードーが喧嘩をする。
マーケード登場。フランス王女の父の死を知らせる。フランス王女一行は帰国することにした。男たちは女たちを引き留める。女たちは、一年間喪に服した後で返事をする、と言い残して帰国する。
ばかになった利口者にはかなわないわ
「……ばかになった利口者にはかなわないわ。知恵という卵から孵った愚かしさには知恵の保証がついているし、学問の助けもある。だから学のあるばかはばかみたいに知恵の飾りをありがたがる。」
『恋の骨折り損』は、起伏に乏しく、山場も見当たらない。偉大な人物も現れない。本書の「解説」によると、やはり、19世紀から20世紀初頭まで、批評家には受け入れられなかったが、20世紀の批評家には好意的に受け止められているらしい。
20世紀批評は、言葉への関心から始まり、人物関係、劇の構造に注目していく。なるほど、確かに構造という視点から本作品を眺めてみたら、興味深い発見があるかもしれない。アン・バートンの「生と死についての劇」「それらへの対し方」、C・L・バーバーの「共同体の一つの祭典の劇化」云々。ただ、20世紀のシェイクスピア批評は、それこそホロファニーズ先生とナサニエル神父に通じるところがあるのではないかと同時に思う。
素直に読むなら、やはり『恋の骨折り損』は風刺劇だ。宮廷の貴族たちが繰り広げる衒学的で難解な美辞麗句、ホロファニーズとナサニエルのラテン語の引用。賢いバカたちが徹底的にこきおろされている。小さくまとまっていて素直に良い作品だと思う。
批評の展開と同時に、翻案の可能性もまだまだ感じられる。恋を捨て学問に励むことを誓った男たちが恋に落ちる、という設定は現代の観客の興味を惹くことができる。現代版に改作することも比較的容易に思われるし、商業的にも成功するのではないだろうか。
2000年にケネス・ブラナー監督が舞台を1939年の設定にして映画化をしている。興行的には成功しなかったらしいが。
シェイクスピアの映画化作品を鑑賞するなら「TSUTAYA」のCD/DVD宅配レンタルサービス「TSUTAYA DISCAS」がおすすめ。『恋の骨折り損』もレンタル作品に含まれていて、新規ユーザーなら30日間無料で利用することができる。