2022年12月21日(水曜日)、新潮社から翻訳家・文芸評論家の鴻巣友季子さんの最新刊『文学は予言する』(新潮選書)が刊行されました。
最新の世界文学地図『文学は予言する』
著者の鴻巣友季子さんは、クッツェー、アトウッド、ゴーマンなどの世界的作家の翻訳を手がけており、エミリー・ブロンテ『嵐が丘』、マーガレット・ミッチェル『風と共に去りぬ』など、古典の新訳もされている翻訳家です。また、朝日新聞文芸時評、毎日新聞読書面、文芸誌各誌で書評を長年担当されている「小説を読むプロ」です。
2022年12月21日(水曜日)に発売された『文学は予言する』(新潮選書)では、カズオ・イシグロ、アトウッドから、多和田葉子、村田沙耶香まで、「危機の時代」を映しだす世界文学の最前線を読み解いていきます。
『文学は予言する』3つのキーワード
この十年ほどの間に、日本では東日本大震災、東京オリンピック招致と延期、元首相の暗殺、世界ではイギリスのEU離脱、アメリカの政権交代と議事堂襲撃事件、新型コロナウイルスによる地球規模のパンデミック、大国ロシアによるウクライナ侵攻など、我々が予想もしていなかった出来事が起きました。社会の分断、閉塞感や不満などがさまざまな場所で指摘されています。
トランプ政権誕生時にはジョージ・オーウェルのディストピア小説『1984年』がベストセラーになり、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まった際にはカミュの『ペスト』に再び注目が集まりました。このような現象は、文学の持つ「予言」の力を多くの人が実感し、そこから教訓を得ようとしていることを表しています。文学には、混迷の時代を見通すためのヒントが隠されているのです。
『文学は予言する』では、3つのキーワード「ディストピア」「ウーマンフッド」「他者」を軸に、文学を通して世界の潮流を紐解いていきます。
「ディストピア」(独裁、AI、SNS)
第一章「ディストピア」では、『侍女の物語』をはじめとするディストピア小説の歴史と現在を紹介するほか、『フランケンシュタイン』から現代のAI小説にいたるまでの「命」や「人間」の定義をめぐる小説や、SNSの「つながり」の裏にある個人データ収集を描いた作品など、ディストピアの最新形まで取り上げています。
マーガレット・アトウッドのディストピア小説『侍女の物語』は、トランプ政権誕生時に『1984年』と並んでリバイバルヒットしました。舞台は男性絶対優位の独裁体制が敷かれた近未来国家、女性は4つの階級に分けられ、最下層は「産む機械」として支配階級の子供を産むための道具になっています。2022年、アメリカで中絶禁止法を合憲とする最高裁判断が下った際にも大きな話題となりました。
「ウーマンフッド」(女性、フェミニズム)
第二章「ウーマンフッド」では、世界的な潮流も踏まえながら『オデュッセイア』から18世紀の少女小説に至るまで変わることなく描写されてきた性加害の構造や、『ファウスト』や『風と共に去りぬ』で描かれた理想の女性像の歴史を振り返ります。そして現代の女性をめぐるルッキズムや身体の問題を描いた最新小説にも注目し、村田沙耶香や川上未映子といった日本の作家による、女性の生きづらさを描いた作品が世界的な評価を得ている状況を解説しています。
「他者」(多様性、翻訳)
文学の世界でもグローバリゼーションが進行し、翻訳作業も盛んに行われていますが、同時に文化の衝突や摩擦なども浮き彫りとなっています。第三章「他者」では、「翻訳の政治性」をめぐる最新のトピック、近年の世界的文学賞にノミネートされる少数言語作品の紹介、多言語的状況の中で新しい表現を生み出している国内外の作品の紹介が行われています。
鴻巣友季子(こうのすゆきこ)
1963年東京生まれ。翻訳家、文芸評論家。訳書にJ・M・クッツェー『恥辱』(ハヤカワepi文庫)、M・アトウッド『誓願』(早川書房)、A・ゴーマン『わたしたちの登る丘』(文春文庫)等多数。E・ブロンテ『嵐が丘』(新潮文庫)、M・ミッチェル『風と共に去りぬ』(全5巻、同)、V・ウルフ『灯台へ』(『世界文学全集 2-01』収録、河出書房新社)等の古典新訳も手がける。著書に『明治大正 翻訳ワンダーランド』(新潮新書)、『翻訳教室』(ちくま文庫)、『翻訳ってなんだろう?』(ちくまプリマ―新書)、『謎とき『風と共に去りぬ』』(新潮選書)、『翻訳、一期一会』(左右社)等多数。
出典:プレスリリース
新潮選書『文学は予言する』は、ここ十数年の国内外の文学の状況と世界の趨勢を一冊で概観することができる、「最新の世界文学地図」になっています。年末年始の読書リストに加えてみてはいかがでしょうか?
プレスリリース「“最新の世界文学地図”がこれ一冊で分かる! 新刊『文学は予言する』(鴻巣友季子著・新潮選書)が本日発売!」