いわいつら【いはゐ蔓】
つる草の一種。一説にスベリヒユとも。万一四「大屋が原のー引かばぬるぬる我(わ)にな絶えそね」
第17回の語は「いわいつら【いはゐ蔓】」。
「つる草の一種。一説にスベリヒユとも」とは、広辞苑もあやふやな説明をしてくれるものだ。
用例の歌を手元の講談社文庫の『万葉集』で調べてみると、「いはゐ蔓」は「蓴(じゅん)菜か。他説スベリヒユ・ミズハコベ等」とある。つまり、「いはゐ蔓」が何であるか誰にもよくわかっていないらしい。
広辞苑が挙げている「スベリヒユ」は、農家には雑草として嫌われているが、食用にも用いられ、また利尿・解毒剤として薬用にも用いられる。独特の酸味とぬめりがあり、各地で味噌汁やおひたしにして食べられている。
入間路の大家が原のいはゐ蔓 引かばぬるぬる吾にな絶えそね
『万葉集 全訳注原文付(三)』中西進(講談社文庫)p.249
「入間路にある大家が原のいわい蔓の、つるを引けばぬるぬる続くように、私との仲を絶やすな」ということらしいが、いはゐ蔓とは何か、という問題は「ぬるぬる」の意味にかかっているのではないか。
「ぬる」とは「ほどける」の意の古語である。同音の「ぬる 【濡る】」もあり、こちらは「濡れる」の意である。濡れているからほどけるわけで、元は同じ語かもしれない。素人考察だから「間違っていたらごめんなさい」である。ただ、スベリヒユは畑の雑草であるものの、ジュンサイとミズハコベはどちらも湿地の植物だから、偶然とは思えない。
さて、「いはゐ蔓」はスベリヒユなのだろうか。歌では「ぬるぬる」と音が重ねられているために、現代日本語で用いられている擬態語の「ぬるぬる」を連想してしまい、スベリヒユのぬめりとした食感のイメージについ引きずられている気もする。ジュンサイ・ミズハコベ説も「濡れる」イメージに引っ張られているのだろうか。
「引かばぬるぬる」とは、単純にほどけているだけなのか、それとも濡れているイメージも含まれているのか。
「いはゐ蔓」。正体不明、謎の植物である。