ふぎょう【俯仰】
広辞苑第七版「俯仰」p.2538
①下を向くことと上をあおぐこと。
②転じて、起居動作。
第15回の語は「ふぎょう【俯仰】」。
「俯仰」とは、「うつむく」と「あおぐ」を同時に表現した言葉である。すなわち、顔を下げる動作と、顔を上げる動作のこと。人は日常のなかで、俯き、仰ぐ。
慣用句として用いられ、たとえば「俯仰天地に愧じず」という表現がある。「仰いで天に愧じず、俯して地に怍じず」に同じく、「心に一点のやましいところがなく、公明正大であること」を表す。
また「俯仰之間」という四字熟語もある。俯いたり仰いだりするわずかな間という意味で「非常に短い時間」のたとえである。
単なる身体の所作が、しだいに道徳や時間の比喩になるのだから、言葉とはおもしろい。
ところで、なぜ、私たちはうつむき、あおぐのだろうか。恥ずかしいから、うつむくのか。誇らしいから、あおぐのか。
うつむけば「謙虚」、あおげば「矜持」、うつむきすぎれば「卑屈」、あおぎすぎれば「傲慢」。
ほどよい態度で生きていきたいものだが、それがいちばん難しい。「俯仰天地に愧じず」の境地を目指したいと思っているうちに、「俯仰之間」に百年が過ぎてしまうのかもしれない。