たちかつぎ【太刀担ぎ】
広辞苑第七版「太刀担ぎ」p.1803
左の肩の中ほどのところ。
第12回の語は「太刀担ぎ」。
地味な語義だ。「左の肩の中ほどのところ」。それだけのことである。それだけのことなのに、なぜか妙にかっこいい。サムライの必殺技のようでもあり、刀鍛冶の特殊技術のようでもあり、軍記物の登場人物の渾名のようでもある。「太刀担ぎの清兵衛」などというと、それだけで物語が始まりそうな気配がある。
だが、実際にはただの身体部位の名称である。武士が太刀を背負うときの「最適ポジション」がそこだった、というだけのこと。日常的に刀を担いでいた時代には、この部位がちゃんと名称として独立していたということなのだ。「刀を担ぐ位置」に名前がついているというのは、なかなかおもしろい。現代の我々にはピンとこないものの、昔の武士にとっては、日常的に意識される「ポイント」だったのかもしれない。
言葉というものは、社会の身体の記憶である。「太刀担ぎ」には、武士的身体性が反映されていた。この言葉は忘れ去られつつあるが、現代社会の「左肩」は「◯◯担ぎ」になるだろう? 「スマホ首」という語が誕生しているくらいだから、いずれ、左肩の名称もアップデートされるかもしれない。
ところで、なぜ「右肩」ではなく「左肩」だけを指すのだろうか。武士の社会は鞘がぶつからないように「左側通行」、鞘も左腰に差すわけだが、太刀を担いでいる場合には、礼儀作法の面でも、抜刀などの実践的な面でもあまり影響がないような気がする。ちょっとやってみないとわからない。殺陣などをやっていて模擬刀をお持ちの方がいれば、「太刀担ぎ」の抜刀・右肩バージョン、試していただきたい。