Amazon Prime Readingなら対象のKindle本、マンガ、雑誌が読み放題! >>

『みみずくは黄昏に飛びたつ』川上未映子・村上春樹 感想

書評

川上未映子の村上春樹独占インタビュー。帯に大文字で「『騎士団長殺し』誕生秘話」とあるけれども、『騎士団長殺し』の解説書ではない。そもそも、村上春樹作品に解説を求めているなら、本書を手に取る必要はないかもしれない。

作家、川上未映子の疾風怒濤の連続攻撃。インタビューだから、当然、村上春樹に失礼にならないようにオブラートに包んでいるけれども、よく注意をしていたら、川上未映子の真意がわかるはずだ。

スポンサーリンク

芥川賞作家 川上未映子

川上未映子は2008年に『乳と卵』で芥川賞を受賞した作家。1976年8月生まれ。

村上春樹が1949年1月生まれだから、28歳差ということになる。本書では、この年齢差が重要な役割を果たしたことになると思う。今まで、高評価にせよ、低評価にせよ、村上春樹を評価してきたひとたちは、村上春樹と同世代、あるいは、上の世代のひとたちだった。しかも、目立つ意見は権威筋のものばかり。

村上春樹のデビュー作『風の歌を聴け』の発表は1979年、つまり、川上未映子世代の読者は、子供の頃には、すでに、村上春樹というムーヴメントを通過していた。だから、過去の作家、批評家が、日本文学の伝統と村上春樹文学を比較することからスタートしていたのに対して、川上未映子は村上春樹を当然のように通過して、どのようにしたら、村上春樹的価値観を乗り越えることができるのか、という場所から出発している。だから、彼女の質問は鋭い。質問の内容は多岐に渡るが、「21世紀の作家のありかた」を問う、ということに収斂すると思う。

スポンサーリンク

第1章「優れたパーカッショニストは、一番大事な音を叩かない」

第1章「優れたパーカッショニストは、一番大事な音を叩かない」は『職業としての小説家』刊行後のインタビュー。小説執筆上の技術的な質問が多い。作家と読者の間の関係の変化、作家のキャビネット、人称の変化、リアリティ、文章のリズムなど。

しかし、川上未映子は表面的な質問に留まらない。ポスト村上春樹世代の作家が聞いてほしい、と思うところをしっかりと聞いてくれる。例えば、「自分にしかできないことを追求する」という節では、小説家は社会的な問題に対して積極的に発言をするべきだろうか、という疑問をぶっつける。

「小説家は物語を書く人間だからそういった社会的なこととは線を引くべきだという態度で納得している人も多い。そこには村上さんの影響もあるような気がしています。小説家は意見を言わないことが大事だ、判断を保留し、ただ観察をつづけて物語を書くことが重要なのだ、というような。(中略)小説家はまず、ちゃんと物語を書くことが大事だと、村上さんがこれまで繰り返し言ってきてくれたから、その発言の『いいとこ取り』をしている気がしないでもないんです。そもそも意見を求められもしないけど、発言を回避することにある種の正当性を勝手に見いだしているというか。でも村上さんがここまでやってこられた時代の背景と、今の作家が拠っている文脈は、実はまったく違っているのじゃないか」p.60

そのとおり。村上春樹の曲解が横行して、村上春樹の言葉を盾にして、反村上春樹的態度を取っている若手作家が本当に多い。ただ、批判を避けたいという気持ちから、村上春樹を気取っている。20~40代で、自律的に思考する能力を持っている少数の作家たちにとって、切実な問題。この質問に対する村上春樹の回答は、ぜひ、本書を実際に読んでいただきたい。

スポンサーリンク

『騎士団長殺し』について

第2章から第4章は『騎士団長殺し』刊行後のインタビュー。タイトルと人称の決定、主人公の年齢設定、文体、結末の救済措置、推敲の方法論、「悪」の描写、集合的無意識、古代的なスペース、小説の中の女性の役割など。

特に、「女性が性的な役割を担わされ過ぎていないか」という節は、多くの読者が期待していたところではないだろうか。女性作家の川上未映子がツッコミをいれたら、村上春樹はどうするのか。まあ、結果はのらりくらりとかわされたというのが正直なところ。アメリカ文学研究者、都甲幸治の「村上がどんなに政治的に正しい演説をし、リベラルな意見をエッセイで述べていても関係がない。村上の作品が性差別的であることは明白な事実だ」という批判を思い出させる。

本書は村上春樹へのインタビューの体裁を取っているけれども、結果的には、21世紀の作家のありかたについて、問題点を浮き彫りにしている。川上未映子世代にとって、非常に有益なインタビュー。

昔、村上春樹は文壇を避けていたから、現代の若手作家も真似をして、「文壇には近づかないようにしている」「私は個人的な人間だから」と口を揃える。しかし、今では、村上春樹という仮想的な文壇が機能しているように私には感じられる。村上春樹を乗り越えていくために、有益な示唆が本書には収められている。

ちなみに、第1章のインタビューは西麻布レイニーデイカフェで行われている。素敵な雰囲気のカフェだから、よかったら、行ってみてください。

 

村上春樹長編小説全14冊をレビュー!あなたにおすすめの作品はこちら!
本記事では、小説家・村上春樹の長編小説全14作品を紹介します。最後の「まとめ」では、読者のタイプ別に...
村上春樹の短編小説集全13冊をレビュー!あなたにおすすめの作品はこちら!
本記事では、小説家・村上春樹の短編小説集を紹介します(全13冊)。 『中国行きのスロウ・ボート』 リンク 青春の追憶と内なる魂の旅を描く表題作ほか6篇。著者初の短篇集。 引用:Amazon「内容紹介」 1983
タイトルとURLをコピーしました