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草野心平 カエルを愛した詩人の世界

草野心平 日本文学
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草野心平は幻想的な宇宙感覚と原始的な生命感が特徴的な詩人です。カエルをテーマにした詩集『第百階級』で詩壇に登場、1935年には中原中也らと詩誌『歴程』を創刊しました。カエルを題材にした作品が多くあり、「蛙の詩人」と呼ばれています。

生い立ちと詩人への道

1903年、草野心平は福島県石城郡上小川村、現在のいわき市小川町に生まれました。自然豊かな田舎で育ち、幼いころから生き物や自然への深い愛情を抱いていたといいます。特にカエルへの愛着は有名で、「蛙の詩人」と呼ばれています。

1928年には詩集『第百階級』を発表。『第百階級』には蛙を題材にした作品が収録されています。自伝『わが青春の記』によると、初刷100部で売上は「すくなくて二部、多くても五部程度だったことはたしか」らしいですが、絵画的な表現や音の遊びなど、当時のアヴァンギャルドな詩的改革の精神を感じることができます。

代表作

  • 『第百階級』
  • 『母岩』
  • 『蛙』
  • 『富士山』
  • 『日本砂漠』

『第百階級』は蛙の詩を収録した最初の作品です。たとえば、「秋の夜の会話」を読んでみましょう。

さむいね
ああ さむいね
虫がないてるね
ああ 虫がないてるね
もうすぐ土の中だね
土の中はいやだね
痩せたね
君もずゐぶん痩せたね
どこがこんなに切ないんだらうね
腹だらうかね
腹とつたら死ぬだらうね
死にたくはないね
さむいね
ああ 虫がないてるね

『第百階級』「秋の夜の会話」

冬眠を間近に控えた時期。二匹のカエルの会話です。寒さ。餓え。死の気配が漂っています。カエルたちの会話ではありますが、人間的な感情が感じられ、胸を締めつけられるような切なさがこみあげてきます。

『第百階級』でカエルの詩に惹かれたなら、『蛙』も読んでみてください。生命の豊穣感や切なさを描いています。いわゆる「蛙の詩人」のイメージどおりかもしれません。

『母岩』も「芝浦埋立地にて」など、独自の宇宙的な時間感覚を感じられる作品があり、非常に良いです。

『富士山』は詩の素材としてあまりにもストレートな富士山を描いているわけですが、創作をされている方には参考になるところがあります。視点の位置、五感の活用法など、あまりにも定番の素材も表現の余地があるのだな、と驚かされます。

『日本砂漠』は戦後最初の詩集で、ノスタルジックな観察記録のようなテイストです。

最後に

最後に、やはりカエルについて補足しておきます。草野心平=カエル。特にカエルに興味がない方は敬遠するかもしれませんが、もったいないです。草野心平のカエルはカエルではありません。徹底的な観察を基に描写されているカエルではなく、ヒトに似たカエルです。草野心平のカエルに対する憧憬からは、ヒトの生を前提に描かれているような切なさが感じられます。

草野心平の詩を読みたいなら、岩波文庫「草野心平詩集」がおすすめです。最初の詩集『第百階級』から晩年の年次詩集まで、全詩集から傑作が選ばれており、文庫本一冊で草野心平を概観することができます。

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